穢銀杏狐月

書痴の廻廊

事は起すに易く、守るに難く、其終りを全くすること更に難し。努力あるのみ。一途に奮励努力せよ。

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2019-11-01から1ヶ月間の記事一覧

続・いろは歌撰集

▼▼▼前回の「いろは歌撰集」▼▼▼ い 出や此世に生れては ろ 露命も僅か朝顔の は 花の盛りも僅かなり に 憎き可愛ゆき薄きうち ほ 恣(ほ)しき憎きの薄きうち へ 片時も油断すべからず と 兎に角勇み読書(よみかき)は ち 力づくには行かんぞよ り 利口の人…

レイモンド博士の心理実験 ―古き米国女性の気風について―

今ではもう、すっかり地を払ってしまった気風だが。 第一次世界大戦前までは、アメリカ人の女性たちにも脚の露出を厭う傾向が確かにあった。 身に纏うのは専らロングスカートで、ショートスカートなど以っての外。駅の階段を上る際、段差があまりに激しすぎ…

文明開化珍談二種

明治初頭、急激に押し寄せた文明開化の大波に人心がとても追随しきれず、結果数多くの狂態が――病院のベッドを実見した民衆が、これは人間を丸焼きにして「毛唐ども」に喰わせる装置に違いないと思い込み、積極的自衛策として先に病院に火を放つ、といったよ…

偉人にまつわる紫煙の逸話

イングランドの大哲学者、トマス・ホッブズは非常なタバコ好きでもあった。 彼の仕事机の上には、常に十二本のパイプが並べられていたという。ペンを取るより先に、これらパイプにタバコの葉を詰めるのが、いわば彼の日課であった。 つまり物を書いている最…

オックスフォードの喫煙競争

1723年9月4日の出来事だ。英国はロンドン、オックスフォード・ストリートにある劇場で、世にも珍しい「比べ合い」が開催された。 三オンスの煙草を、誰が一番早く吸い尽くせるかという競技である。 (Wikipediaより、1875年のオックスフォード・ストリート)…

迷信百科 ―「日本人の末裔」伝説―

自ら名乗ったのか、勝手な浪漫を託されたのかは定かでないが。 南洋に散らばる無数の部族の間には、日本人末裔伝説を背負うモノとて存在する。 江戸時代初期、幕府の鎖国政策により故郷を失った人々が、現地に帰化する道を選んで血が混ざり、やがて――といっ…

パイプと疫病 ―英国紳士の必需品―

「英国紳士」のイメージ像に、パイプの存在は欠かせない。 真っ黒なシルクハットの下、静かにパイプをくゆらし思索に耽る人物風景を目にしたならば、誰しも彼の国籍をイギリス人だと推察しよう。同時に彼の腹の底で、どれほどえげつない奸計が張り巡らされて…

夢路紀行抄 ―星の丸み―

夢を見た。 断崖を、延々下り続ける夢である。 それも『デスストランディング』に登場する、ロープ用パイルを使いながら。 パイルを突き刺し、ロープを垂らし、右に左にトラバースを繰り返しつつ下降してゆく。 ロープの限界、30メートル圏内に、次の下降の…

通貨としての巻煙草

96000000000000000000000000%。 この数字が何を意味するかお分かりだろうか。 二次大戦終結後の、ハンガリー通貨「ペンゲー」のインフレ率である。 漢数字に直すと、九十六𥝱パーセント。 「京」の上の更に上、10の24乗を示す単位だ。 ハイパーインフレとし…

鶴見三三と人民戦線 ―後編―

昨今のフランスでも「黄色いベスト運動」なる政府への抗議活動が進行中で、催涙弾や火炎瓶が飛び交う光景が内外に多大な衝撃を与えたものだが、それでも三色旗を掲げているぶん、彼らはまだ良性(・・)だった。 なにしろ約八十余年前、鶴見三三が目撃した人…

鶴見三三と人民戦線 ―前編―

欧州大戦開幕の日をドイツのベルリンにて迎え、その境遇を活かして前古未曾有のこの大戦を側面から存分に眺めた男、鶴見三三の「その後」に触れる。 この男は、出世した。 彼が国際連盟保健委員会の本邦委員に就任したのは大正十三年の一月であり、それから…

生臭坊主の化け医者遊び

織田信長が比叡山を焼き討ちした際、突き殺されて炎の中に投げ込まれた死体の中に、数百の女子供が混じっていたのは有名な話だ。 多くの聖域がそう(・・)であるように、王城の鬼門封じに相当する至高至尊のこの巨刹にも、女人禁制の結界が張られているはず…

夢路紀行抄 ―葦名流 対 二天一流―

夢を見た。 『隻狼』の葦名一心と、『刃牙道』の宮本武蔵が立ち合う夢だ。 どうしてそうなったか、経緯についてはよく憶えていない。 確か私の夢世界では武蔵は一心の食客で、彼の屋敷で起居する身分であったのだ。 その武蔵がふとしたことから同じ食客の一…

「匪梳兵箆」の中国社会

中華民国が台湾へ追い落とされる以前の話、未だ彼らが大陸中央に座していたころ――。 彼の地の人口に膾炙された四字熟語に、「匪梳兵箆」なるものがあった。 匪――すなわち馬賊や土匪の掠奪は、あたかも荒櫛で梳き取るように行われ、そのぶん取りこぼしも多い…

北米大陸を繋げる旅へ

今日は記念すべき日だ。小島プロダクションの新作ソフト、『デス・ストランディング』が発売された。 早速のこと、買ってきた。 ゲームの発売をここまで待ち遠しく思ったのは、『隻狼』以来のことやもしれぬ。 中学生のころ『MGS2』に触れ、その独特過ぎるテ…

日本人留学生の目撃したる第一次世界大戦下のヨーロッパ ―後編―

(なんだ、ありゃ) ロンドンに到着して早々、鶴見は異様な光景に面食らっていた。 そこここの広場や公園で、ざっと二・三十人程度からなる人間集団の数々が、おイッチニ、おイッチニと行進の練習をやっている。 が、お世辞にも足並みが揃っているとは言って…

日本人留学生の目撃したる第一次世界大戦下のヨーロッパ ―中編―

本国からの通信が漸く届いた正確な日付を、鶴見三三は憶えていない。『明日の日本』中に於いても、「八月九日か十日であったか」と曖昧な語り方になっている。 通信を受けて以後の展開が、灰神楽の立つほどに慌ただしかった所為であろう。日記をつける暇もな…

日本人留学生の目撃したる第一次世界大戦下のヨーロッパ ―前編―

そのころのベルリンに、鶴見三三(さんぞう)という名の日本人が、医学留学のため滞在していた。 そのころ(・・・・)とはすなわち、 バルカン情勢が日に日に悪化し、「ヨーロッパの火薬庫」と呼ばれ、 列強の何れもがこの「火薬庫」を解体し得ぬまま、 つ…

迷信百科 ―インドの早婚―

インド亜大陸を支配下に置いた大英帝国の人々は、この地に蔓延るとある特異な風習を目の当たりにして、 「インドという国は、娘たち(ヤング・ガール)の居ない国だ」 頭を左右に振りながら、そのように慨嘆したという。 特異な風習とは、すなわち早婚のこと…

主人格の消滅 ―フェリダ婦人の場合―

解離性同一性障害――多重人格の症例にも色々あるが、19世紀に確認された、フェリダ婦人の身の上に起きた現象は、なかなか珍しいのではなかろうか。 最初にそれが起きたのは、彼女がまだ14歳、少女の身空であったころ。フェリダ婦人は生来頭の回転の非常に速い…