穢銀杏狐月

書痴の廻廊

事は起すに易く、守るに難く、其終りを全くすること更に難し。努力あるのみ。一途に奮励努力せよ。

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2023-11-01から1ヶ月間の記事一覧

無効票に和歌一首

黒白を 分けて緑りの 上柳赤き心を 持てよ喜右衛門 投票用紙に書かれた歌だ。 もちろん無効票である。 明治四十二年九月に長野県にて実行された補欠選挙の用紙には、とにかくこのテの悪戯が、引きも切らずに多かった。 (信州諏訪の風車。「これは地下のアン…

銃器と大和魂と

伝統とは、ときに信頼なのだろう。 フランスがスエズ運河の開削に、オランダ人らを大挙雇用した如く。 村田銃の量産作業に際会し、明治政府もひとつ凝った手を打った。 玄人衆を引き入れたのだ。 彼らは西南から採った。種子島の鉄砲鍛冶に声をかけ、遥々帝…

明治二十年の外道祭文

非常に意外な感がする。 まさか天下の『時事新報』に、「キチガイ地獄外道祭文」を発見するとは。 不意打ちもいいとこ、予想だにせぬ遭遇だった。 明治二十年三月三日の記事である、 「西洋諸国にては遺産相続の際などに、一方の窺覦(きゆ)者が他の相続人…

Apocalypse Now

「なあ、おい、聞いたか、あの噂」「どの噂だよ、はっきり言えや、てやんでえ」「どうも世界は滅ぶらしいぜ」 こんな会話を、人類はもう、いったい幾度繰り返し交わし続けて来たのだろうか。 千か、万か、それとも億か。たぶん、おそらく、発端は、西暦開始…

真面目な変態野郎ども

日光東照宮こそは、家光の狂信の結晶である。 (日光東照宮 陽明門) 先述の通り、家康をして日本歴史開闢以来、最大・最強・最高の英雄なりと百パーセント心の底から信奉していた家光は、神にも等しい、そういう祖父の、御霊を祀るための廟所は、これまた当…

外圧余談

余談として述べておく。 度を越して過熱した欧化運動、その分かり易い例として、明治十二年一月の日枝神社を挙げておきたい。 同月十五日付けの『東京日日新聞』紙を按ずるに、 「今十五日は日枝神社の月次の祭典なるが、神楽は我が神代より有り触れたるもの…

外圧こそが起爆剤 ―明治人らの相似形―

明治の初め、本格的に国を開いて間もないころの日本に、どやどや上がりこんで来た紅毛碧眼の異人ども。我が国固有の風景を好き放題に品評した彼らだが、こと建築に限っていうと、嘆声を放ったやつはほぼ居ない。 「なんだこの、薄っぺらな紙と板の小細工は」…

獅子のまねごと ―ロッペン鳥奇話―

我が子を崖下に突き落とすのは、ライオンのみに限った習性、――専売特許でないらしい。 「ロッペン鳥もそれをする」 と、三島康七が述べている。 昭和のはじめに海豹島の生態調査をした人だ。 (Wikipediaより、ロッペン鳥ことウミガラス) そう、海豹島――。 …

Linga ―雄の象徴―

昭和十五年十月二十三日、大日本帝国、オットセイ保護条約の破棄を通告。 その一報が伝わるや、たちまち社会の片隅の、なんとはなしに薄暗い、陰の気うずまくその場所で、妙な連中が歓喜を爆発させていた。 猟師でも毛皮商でも、はたまた国際社会のすべてを…

薪の子

アイヌラックル然り、ポイヤウンベ然り。 アイヌの世界観に於いて、雷神はよく樹木を孕ませ、そして英傑を産ましめた。 前者はチキサニ、すなわち春楡(ハルニレ)の樹木から、 後者はアッツニ、すなわち於瓢(オヒョウ)の樹木から、 それぞれ誕生したのだ…

継がれゆくもの

商人の仕事は金儲けだ。 守銭奴が彼らの本質である。 世界に偏在する富を、己が手元に掻き集めること、一円一銭一厘たりとも忽(ゆるが)せにせず、より多く。それ以外にない、ある筈もない。またそうしてこそ、それに徹してみせてこそ、敏腕とも呼ばれ得る…

メキシコ情緒 ―天地殺伐、荒涼の国―

メキシコ。 血に塗(まみ)れた国名だ。 殺人、強盗、誘拐、密輸。拷問、処刑も付け足していい。そして勿論、麻薬もだ。この名前から呼び起こされるイメージは、邪悪を煮詰めたモノばかり。それが正直な心情だ。マラカス振って陽気に踊り、タコスを頬張るな…