穢銀杏狐月

書痴の廻廊

事は起すに易く、守るに難く、其終りを全くすること更に難し。努力あるのみ。一途に奮励努力せよ。

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2024-10-01から1ヶ月間の記事一覧

満ち足りないと なおも言え

国家とマグロの生態は微妙なところで通い合う。どちらも前進を止(よ)せば死ぬ。 「足るを知るの教は一個人の私に適すべき場合もあらんかなれども、国としては千萬年も満足の日あるべからず、多慾多情ますます足るを知らずして一心不乱に前進するこそ立国の…

無慈悲なるかな時の神

未来は過去の瓦礫の上に築かれる。 「時間」の支配は残酷にして絶対だ。「時間」は決して永久不変を許さない。時の流れはこの現世(うつしよ)に籍を置く、あらゆるすべてを侵食し、変化を強いるものである。 斯かる一連の作用を指して、「時間」なるものの…

酒は呑むべし登楼もすべし、そして勉強もするが好い

三日で三万五千樽。 明治二十二年の二月、憲法発布の嘉日に際し、帝都東京市民らが消費した酒の量だった。 (Wikipediaより、憲法発布略図) 数はほとほと雄弁である。明治人らが如何に浮かれ騒いだか、口を大きくおっぴろげ、つばき(・・・)を飛ばし、め…

原風景にダイブして

米こそ五穀の王である。 その専制は絶対で、他の穀物が如何に徒党を組もうとも、崩すことは叶うまい。 少なくとも、日本に於いては確実に。 「日本という国は藁が本当にいろいろのものに使われている。頭のてっぺんから足の先まで藁で包まれ、家の中まで藁に…

俺の親父はパラノイア ―夏目伸六、トラウマ深し―

息子(せがれ)を殴り倒すのに、いちいち理由は話さない。 いついつだとて「コラ」か「馬鹿ッ」。啖呵と共に鉄拳が飛ぶ。家庭人としての漱石は、どうもそういう一面を、ある種悪鬼的相貌を備えつけていたらしい。 次男の夏目伸六が、かつて語ったところであ…

日本的な、あまりに日本的な

東京湾にサメが出た。 単騎にあらず、二頭も、である。 時あたかも明治二十一年五月半ばのことだった。 (Wikipediaより、ホオジロザメ) かなり珍しい事態だが、まんざら有り得なくもない。確か平成十七年にも、五メートル弱のホオジロザメが川崎あたりに漂…

韓国に良材なし

時期的に台風が濃厚である。 明治二十四年九月四日、朝鮮半島仁川港は暴風雨に襲われた。 たまたま彼の地に日本人の影がある。韓国政府の招聘を受け、当港にて海関幇弁をやっていた青年・平生釟三郎だ。 (Wikipediaより、平生釟三郎) 川崎造船所のダラー・…

絶やすまいぞえ、海の幸

乱獲による海洋生物個体数の減少は、戦前既に問題視され、水産業者一同はこれが対策に大いに悩み、頭脳を酷使したものだ。 物事の基本は「生かさず殺さず」。根こそぎ奪えば、いっときの痛快と引き替えに、次の収穫は期待できない。いわゆる「越えてはならな…

秋の夜長に想うには

コナン・ドイルとシャーロック・ホームズがいい例だ。 作家にとって「描きたいもの」と、彼に対して世間が「求めているもの」と、両者は屡々喰い違う。そこに悲劇の種子(タネ)がある。 竹久夢二も、どうやらそっちの類に属す表現者であるらしい。 (Wikipe…

つるべ落としの太陽よ

妄想癖を生みやすいのは、一に病弱な人間だ。 ただ天井のシミばかりを友として床に入って居らねばならないやるせなさ。活動する世間から切り離された疎外感。とろとろとした時間の中で、人は次第に己が心に潜り込み、その深淵の暗がりに、娑婆では到底望まれ…

神田明神参詣記

やっと涼しくなってきた。 十月も一週間を経てやっと。 これでも未だ平年並みには程遠い、だいぶ高温傾向なのであろうが、それでも体感はずいぶんマシだ。 暑いと駄目だ、モチベーションまで溶けちまう。何もやる気が起こらない。 盛夏に於けるアスファルト…

文武両道、佐賀男児

古賀残星の性癖に「女教師好き」がある。 幼少時代の実体験から育まれたモノらしい。 「私達の小学校の頃は紫紺の袴をはいた女教師を見て来たのであるが、その時代は非常にロマンチックな色彩があり、教育にも人間味があった。殊に女学校出身の女教師には美…

民本主義者と国家主義

改めて思う。 小村寿太郎はうまくやったと。 ヨーロッパの火薬庫に松明がえいやと投げ込まれ、轟然爆裂、世界を延焼(もや)す大戦争が開幕したあの当時。 (Wikipediaより、サラエボ事件) 各国大使の舐めた辛酸、一朝にして敵地のど真ん中と化した窮境から…

選挙と歌と ―夫を支える晶子女史―

浦島よ與謝の海辺を見に帰り空しからざる箱開き来よ 哀れ知る故郷人(ふるさとびと)を頼むなり志有る我背子の為め 新しき人の中より選ばれて君いや先きに叫ぶ日の来よ 以上三首は大正四年、衆議院選挙に打って出た與謝野鉄幹尻押しのため、その妻晶子が詠み…