歴史
「大航海時代はジンギスカンが生み出した」。 文学博士・中山久四郎の説である。 ──何を言い出すんだこの男。 頭の調子を疑いたくなる、突飛な話に聴こえるが、相手は仮にも東洋史の専門家。 その肩書きに敬意を表し、よくよく耳を澄ましてみると、まんざら…
一九一八年十二月、和暦に直せは大正七年度の師走。 ウッドロウ・ウィルソン大統領の名の下に提出された教書には、連邦議会のみならず、太平洋を隔てた先の日本の朝野の心さえ、大いにざわめき立てられた。 「一年前に於て吾人は海外に僅に十四万五千九百八…
頻繁な火事なかりせば、お江戸の街はああまで永く繁栄を保ち得たろうか? 「すべからく、破壊からの復興は経済成長の土壌」とは、『ACfA』で耳に馴染んだ言葉であった。同様の理屈に基いて、定期的に烏有に帰していればこそ、都市経済は比較的円満に回転し続…
奈良に酒造家あり。 讃岐屋と号す。 蒼古たる中院町の一隅にて暖簾を掲ぐ。 当主は代々、「兵助」を名乗るシキタリである。 あられ酒の発明は、この讃岐屋の五世兵助によると云う。 (Wikipediaより、奈良盆地) 春日大社へ信心厚い兵助は、ある日、参拝を終…
政治事情がすべてに優先されるのが、アカい国家の特徴だ。 政府の、党の、下手すりゃいっそ一個人の面子を守るためだけに、ソロバンだって平気の平左で投げ捨てる。経済的意義ですら、政治的意義を追い越すことは許容されていないのだ。強引な突破を図れば最…
「赤匪」こと支那共産党の戦略は、実のところ読めていた。 国共合作の美名に隠れ、彼らが如何に陰険かつ悪辣なる謀略を張り巡らせていたものか。「他日の雄飛」を目論んで、己が天下取りのため、あらゆる準備工作におさおさ怠りなかったか。日本側にも、掴ん…
一次大戦後のドイツ、──ワイマール政体下に於ける超インフレは有名だ。 有名すぎて、敢えていまさら詳説するのも野暮ったい。 現代日本人ならば、ほとんど九分九厘までが義務教育の過程にて、マルク紙幣のブロックみたいな札束を積み木代わりにして遊ぶ、当…
これは下村海南が伝えてくれた情報だ。 戦前昭和のある時分、沖縄、名護の片隅に、天刑病──癩病患者の療養所を建てる計画が浮上した。そのあたりには以前より、顔の崩れた浮浪者どもが群れをなして存在し、これをいつまでも放置するのはあらゆる面から好まし…
明治三十七年である。 日本原産の愛玩犬たる狆(ちん)のオスメス番(つがい)が二組、インド洋を経由して、欧州世界へ送られた。 高橋是清の要請である。 時の英国王妃たるアレクサンドラ・オブ・デンマークへ献上するため、言葉通りの「おくりもの」であっ…
猛獣は日本国にも棲んでいる。 熊である。あの毛むくじゃら且つ筋肉質な食肉類との付き合いは、屡々悩みの種である。奴らときたら人がせっかく手塩にかけた家畜を襲うし畑も荒らす、なんなら財産のみならず、いとも容易く我々の生命さえも脅かす。まったく以…
宗教はアヘンなり。 アヘンは宜しく焼き棄てられよ。あんな毒物、ほんの一片たりとても、地上に留めてはならぬ。 まさかそこまで乱雑な動因からではなかろうが。──とまれかくまれ成立したてのソ連にて、宗教弾圧の凶風がカテゴリー5もかくやとばかりに荒れ狂…
明治四十年前後、徳冨蘆花がこんな風に吼えていた。 「先に古人あり後に来者あり、古人と後人は我に於いて結び付けらる」 やがて来たる者たちのため、かつて来たりし者たちの千姿万態とりどりを、俺が明示し置いてやる、と。 現在を生きる我が筆で、未来の奴…
人命がひとすくいの麦粉より軽く扱われる国家。 そんな国には住みたくもなし、生れたくもないものだ。 ソヴィエト時代のロシアについて言っている。 「政府は一九三二年八月二十二日附にて穀物盗難防止案を発布して、農民が耕地に於いて、又は穀物保管庫に於…
かつて、ロシア人の眼に、瀬戸内海は「河」と映った。 明治三十七、八年役、日露戦争のさなかに生まれた、割と有名な巷説である。 投降し、捕虜となったロシア兵らを御用船にて移送中、この内海へと舳先が入りかけたとき。 彼らの一人がさも感じ入った面持ち…
初期も初期の報道(しらせ)では、甲府もついでに壊滅したとされていた。 江ノ島が沈んじまっただの、富士が崩れ落ちただの。 大正十二年九月一日の大震災は、地震というより天地創造の再開として海外諸国に伝えられた感がある。 (Wikipediaより、関東大震…
ずっと危惧され続けたことだ。 「太平洋の両岸に根を蔓延らせる二大国。旭日旗と星条旗、日本国とアメリカは、結局のところいつか一戦交えぬ限りとてもおさまりっこない、激突を宿命づけられた関係なのではあるまいか?」 昭和どころか大正以前、明治四十年…
まさに総力戦である。 僧侶も、文士も戦場へ征き、敵陣めがけて弾丸(タマ)を撃ち、盛んに殺し・殺されをした。 一次大戦下に於けるフランスの事情を述べている。開戦のベルが打ち鳴らされてものの一年を経ぬうちに、聖職者の身で銃を執り、法服を戎衣に改…
ちょっと人力車めいている。 自転車タクシーとかいった風変わりな代物が第二次世界大戦下、ヴィシー政府のフランスの地に現出(あらわ)れた。 まあ、八割方、名から察しはつくであろうが、自転車に少々手を加え、後から荷車を連結せしめ、一人か二人、客を…
普仏戦争の敗北は、フランス人の精神に重大なる影を落とした。 首都を囲まれ、干しあげられて、動物園の獣を喰って、なお足らず、犬猫ネズミをソテーにしてまで継続した抵抗は、結局何も実を結ばずに、彼らはプロシャの軍靴の前に膝を屈する恥辱に遭った。 …
タウンゼント・ハリスの名前は果たして歴史教科書に掲載されていたろうか? 筆者の記憶は、この点ひどく曖昧である。個人的には記載されるに値する名前であると信ずるが、さて。 (Wikipediaより、タウンゼント・ハリス) ぜんたいハリスとは何者か。 試験で…
英国人が考えた。 そうだ、ゲジラ地方を灌漑しよう。 スーダンの地図を眺めながら考えた。 (ゲジラ(ジャジーラ)州位置) 青ナイルと白ナイル、双(ふた)つの大河に挟み込まれたあの場所は、現在でこそ一面不毛の砂漠なれども、手を加えれば見違えるほど…
世界のすべてを巻き込んだ、人類最初の大戦争の期間中。 前線の悲惨な状況が銃後に浸透するにつれ、一般国民大衆の心理上にもあからさまな物狂いの兆候が、そこかしこに見えだした。 (viprpg『フレイミング リターンズ』より) 帝政ドイツでいっときながら…
今更敢えて鹿爪らしく言うまでもない事実だが、人間は死後、神になり得る。 遺された者、弔う者らが死者を神座へ押し上げる。 大変な作業だ、人手は多ければ多いほどいい。 徳川家康が大権現に、 豊臣秀吉が大明神に、 菅原道真が天神様に、 それぞれ祭りあ…
軍閥打倒・支那統一の方便として、孫逸仙は赤色ロシアと手を組んだ。 モスクワが、コミンテルンがこの繋がりにどれほど執心していたか。ものの数年を出でずして送られて来た「顧問」の数が物語る。 軍事、教育、政務等々、各方面に合わせて二百人超だ。二百…
人を殺ったら鉱山(ヤマ)に逃げ込め。 腕に覚えのある技師にとり、鉱山(ヤマ)は格好の逃避先、奉行所の詮索も届かない、藩邸同様ある種の治外法権だ。──… 江戸徳川の世に於いて、異常な速度で発達を遂げ来たった観念である。 山の腸(はらわた)、暗くう…
占領からものの三ヶ月内外で、五十人もの死者が出た。 一九二三年、フランス・ベルギー軍によるルール占領を言っている。 同年四月十日に於けるヴィルヘルム・クーノの演説内容に則る限り、どうもそういうことになる。ワイマール共和国の首相閣下は、その日…
一九二四年八月三日、ドイツ国民は巨大な弔事の中に居た。 欧州大戦勃発の十周年記念日である。 この日、ベルリン市に於けるあらゆる公共施設にはこぞって半旗が掲げられ、市民はそれを仰ぎ見て、逝ける偉大な帝国へ、とむらいの意を露わにしたるものだった…
交戦期間が長引くにつれ、当事国の民衆はもはや互いに相手のことを同じ人類種であると認識できなくなってゆく。 しょせん獣(ケダモノ)、人の皮を被った悪魔、何百万人死のうともただ一片の憐憫たりとて恵んでやるに価せぬ、ただ粛々と屠殺さるべき畜生風情…
本能寺の変の報を受けた際、黒田官兵衛は秀吉に 「これで殿のご武運が開けましたな」 とささやいた。 ビスマルクもまた、社会主義者の手によって皇帝暗殺未遂事件が発生したと告げられて、咄嗟に口を衝いて出た運命的な一言は、 「よし、議会を解散させろ」 …
すべてが齟齬した、としか言いようがない。 「一年前携へて来た三百羽の軍用鳩は本年一月から三回も実戦に応用して居るがシベリアは鷹が多いので折角通信の為めに放った鳩は途中で鷹に捕はれて了ふ」 上の記録は大正九年、ウラジオ派遣軍野戦交通部附として…