特別な意志は介在しない。
そこに雑誌があったから、ただなんとなく手を伸ばし、開いただけのことである。
場所はドイツのミュンヘンである。たまたま入ったカフェである。前の客が置いていったか、それとも店がサービスとして提供していた代物か。とまれ小泉英一は、コーヒーブレイクの供として、そいつを捲ることにした。

(ベルリン、フリードリヒ通り)
内容は、主に運動を──現代風に謂うならば、スポーツあるいはフィットネス系の沙汰事を取り扱った誌であった。
小泉が
(おや)
と片眉をあげ、指を止めて反応したのは、祖国日本の伝統的な格闘技、「柔術」につき特集した頁である。
よほど興味を惹かれたらしい。
いそいそと、私物の手帳を引っ張り出して、当該記事の概要を纏めることまで、彼はした。
以下が即ち、その「概要」だ。
「日本人は体躯矮小、力量到底白人種に及ばず、然るに一とたび剣を以て立や勇壮無比の働きをする、日本軍隊の強力なることは世界各国の一様に認むる処である。
なかなか以って心地良い贔屓の引き倒されぶりだ。
斯道の達人どもにとっても面目躍如であったろう。
日本人の民族としての強さの秘密を解く鍵の、少なくとも一端を、謂うなら自家の庭先に見出さんとしてくれているわけだから──。
(Wikipediaより、柔道)
ゲイシャ、サムライ、ハラキリ、フジヤマ。
この当時、「日本」と聞いて外国人の脳内に咄嗟に浮かんだざっくばらんなイメージに、「ジュージュツ」を追加することは、十二分に可であろう。
小泉自身の実体験に徴しても、
「近頃西洋諸国に於て日本の柔術を学ぶ者甚だ多いと聞く、私も二三度ドイツ人から柔術を知って居るだらうと問はれた事があった。日本人と云へば、浮世絵のチョン髷を連想すると同時に柔術を思ひ起す人も少なくないらしい。…(中略)…日本の柔術がドイツで研究せられて果して奈辺まで成功するであらうかは興味ある事だと思ふ」
斯かる風潮の発達は、疑いのないことだった。
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。
この記事がお気に召しましたなら、どうか応援クリックを。
↓ ↓ ↓
![]()
