穢銀杏狐月

書痴の廻廊

事は起すに易く、守るに難く、其終りを全くすること更に難し。努力あるのみ。一途に奮励努力せよ。

※当ブログの記事には広告・プロモーションが含まれます

2021-10-01から1ヶ月間の記事一覧

薩人詩歌私的撰集 ―飲んでしばらく寝るがよい―

鹿児島弁は複雑怪奇。薩摩に一歩入るなり、周囲を飛び交う言葉の意味がなんだかさっぱりわからなくなる。これは何も本州人のみならず、同じ九州圏内に属する者とて等しく味わう衝撃らしい。 京都帝国大学で文学博士の学位を授かり、地理にまつわる数多の著書…

アイスランドの温泉利用 ―森なき土地の人々は―

エネルギーの空費ほど人情に反した、許され難き行為というのもないだろう。 自然のより効率的な利用方法。限りある資源から能うる限り最大の利益を引き出してこそ「万物の霊長」、知性体の面目躍如といっていい。 そのための努力の痕跡は、世界各国いたると…

歩兵第三十五聯隊金言撰集 ―越中・飛騨の健児たち―

大日本帝国の軍人たちは、実にこまめに日記をつけた。 明日をも知れぬ最前線にあってさえ、日々の記録を紙上に残す重要性が理解され、将校・士官のみならず、兵に至るまでそれ(・・)をした。 精神教育の効果を期待し、大っぴらに推奨した部隊というのも存…

上野の森の獣たち

戦時中、三重県の一部地域では、イナゴを乾かし砕いたモノを鰹節がわりに使用していた。 なかなか悪くない発想である。 栄養価の高さに反して昆虫食が忌み嫌われる第一は、とにかくあの形状の気持ち悪さにあるだろう。棘だらけの節足や奇怪なまでに長く伸び…

大盛況の襤褸着貸し ―裏道をゆく気持ちよさ―

金を払わず医者にかかれるということは、それ自体がもう既に、一つの快事であるらしい。 そのむかし、三井財閥が東京市の一角に開設した慈善病院。 社会的に恵まれない人々――有り体に言えば貧困層に対しては代価を求めることなしに、無料で診て差し上げまし…

夢路紀行抄 ―チェックポイント―

夢を見た。 ヤケを起こす夢である。 錆びたパイプが石造りの壁を這う、日の差しにくい裏通りでのことだった。 肉厚のナイフを逆手に持って、私は獲物の隙を窺う。くたびれきった作業服に身を包む、ガラの悪い男ども。彼らを始末せぬ限り、この先に――目的地に…

故郷にて ―新道峠ツインテラスからの眺望―

所有権を静岡相手に奪い合ってるだけはあり。 富士を仰ぐに恰好の地は、山梨県内ふんだんにある。 就中、新道峠展望台は個人的にイチオシだ。富士の雄大のみならず、河口湖の明鏡をも併せて堪能し尽くせる。 絶景といっていいだろう。 この眺望の実現のため…

続・先住民のオーロラ信仰 ―冥い黄泉路を―

人は死んだら何処へ行く? 命の終わりはただの無か、それとも更に先があるのか? きっと誰もが思春期あたりにこんなことを考えて、眠れぬ夜を過ごしたのではあるまいか。 その懊悩の坩堝から、天国も地獄も生まれ出た。 (Wikipediaより、地獄の門、ロダン作…

「高貴なる義務」の体現者 ―慶應義塾の古参ども―

波多野承五郎、高橋誠一郎、石山賢吉、小泉信三――。 古書蒐集に耽るうち、気付けば私の手元には、少なからぬ慶應義塾出身生の著作物があつまった。 綺羅星の如き人傑たちといっていい。 その想痕に、ざっと目を通しての所感だが。――どうも彼らはいったいに、…

先住民のオーロラ信仰 ―百年前のアラスカで―

「おお、光の神よ!」 三分前まで正気に見えた。 母を手伝い家事にいそしむ、純朴な少女に見えたのだ。 それが今やどうであろう、印象は完全に一変している。 (狂女であったか、この娘――) 頓狂な叫びを上げるなり、 引き千切るような慌ただしさで服を脱ぎ…

男のサガは ―軍国少年小泉信三―

私の小学生時代。同じクラスに、重度のガンダムファンが居た。 本編を視聴(み)て、ガンプラを組む程度のことでは到底満足しきれない。彼の熱狂ぶりたるや、十やそこらの子供の域を遥かに超えて、ほとんど大人顔負けの、堂に入ったものがあり――例えばモビル…

フランス偶感 ―革命前後と大戦直前―

革命という非常手段で天下の権を掌握した連中が、その基盤固めの一環として、旧支配者を徹底的に罵倒するのは常道だ。 彼らが如何に搾取を事とし、苛政を敷いて民衆を虐げ、しかもそれを顧みず、ただひたすらに私腹を肥やして悦に入ったか。酒池肉林への耽溺…

ごった煮撰集 ―月の初めの「ネタ供養」―

金を散ずるは易く、金を用ゐるは難し。金を用ゐるは易く、人を用ゐるは難し。人を圧するは易く、人を服するは難し。 大町桂月の筆による。 短いながらも、登張竹風に「国文を経(たていと)とし漢文を緯(よこいと)として成ってゐる」と分析された、桂月一…