穢銀杏狐月

書痴の廻廊

事は起すに易く、守るに難く、其終りを全くすること更に難し。努力あるのみ。一途に奮励努力せよ。

※当ブログの記事には広告・プロモーションが含まれます

2024-11-01から1ヶ月間の記事一覧

ロンドンの呪者 ―夏目漱石、許すまじ―

呪者がいた。 呪者がいた。 大英帝国、首都ロンドン。霧の都の一隅に、日本の偉大な文豪を──夏目漱石を怨んで呪う者がいた。 (世にも恐ろしい祟り神) 呪者はイギリス人である。 名前はイザベラ・ストロング(Isabella Strong) 。 テムズ川の流れの洗うチ…

予防に勝る療治なし

風邪が流行っている。 ――じゃによって、マスクをつけろつけろと言っても、若い女性は見目への配慮が先行し、我々の忠告に無視を決め込む。 まったく沙汰の限りだ、と。 帝都の保健に責任を持つ、とある内務官僚が、しきりとこぼしていたものだ。 彼の名前は…

令和六年、ネタ供養

慶應義塾は頻繁に「初物食い」をやっている。 先鞭をつけるに堪能である印象だ。 鉄棒、シーソー、ブランコ等を設置して、以って学生の体育に資するべく、奨励したのも慶應義塾がいのいち(・・・・)だった。 明治四年の事である。 これからの時代、およそ…

リバティ・ステーキ ─合衆国の言葉狩り─

戦争が如何に理性を麻痺せしめ、精神の均衡を失わしめる禍事か。それを示す最も顕著な現象として、交戦相手の国語に至るまでをも憎む──「敵性言語」認定からの言葉狩りが挙げられる。 (Wikipediaより、「キング」改め「富士」) 人類が犯し得る中で、最低レ…

知られざる親日家 ─ドイツ、ルドルフ・オイケン篇─

ルドルフ・オイケン。 ドイツ人。 哲学者にしてノーベル文学賞の受賞者。 第一次世界大戦の突発さえ無かったならば、この碩学は一九一四年八月下旬に日本を訪(おとな)う予定であった。 (Wikipediaより、ルドルフ・オイケン) 経路(ルート)は専ら陸路を…

最初に持っていた奴は

前回掲げた『へゝのゝもへじ』を読み込んで、幾つか気付いたことがある。 本書は初版本である。通弊として、誤字脱字がまあ多い。 そのいちいちに、前所有者は細かく訂正を入れている。 (誤字) (脱字) (逆植) ここまでならば単に几帳面な性格だなとい…

呑んで、天地を

ほんの十秒視線を切った、もうそれだけで姿が見えなくなっている。 子供とは危なっかしさの塊だ。斯くいう筆者(わたし)自身とて、幼少期にはまた随分と親に迷惑を掛けている。迷子になったり突飛なことを口走ったり、危うく保護者の心臓が停止(とま)りか…

秋花粉と女史の夢

「赤と黄とのだんだん染、それも極く大きな柄に染められてゐる、そんな衣裳をつけた人間が、あとへあとへ出て来てそれが列になって、どんどんどんと皆同じ方角から来て皆同じ方角の方へ通りすぎる。それが見てゐるといつまでも尽きない。百人ももっと以上も…

黄金伝説 ー他人は歩く金袋ー

人を見る。 じっと見る。 大阪梅田の駅頭で、あるいは街の活動写真の入り口で。手持ち無沙汰にたたずみながら、しかしその実、行き交う人のつらつきを油断なく観察している奴がいた。 「こうしていると、ここでその日いちにちに、いくらぐらいの実入りがある…

濁流に濁波をあげよ

「政治は金なり」。 犬養毅の信念である。 あるいは政治哲学か。 ひとり犬養のみならず、大政治家と呼び称される人々は、揃いも揃ってこう(・・)だった。皆一様に金の真価を認識し、使い方がすこぶる上手い。金に使われるのではなくして、金を支配し、金を…

古物愛玩 ―流出した仁王像―

新時代の開闢に旧世界の残滓など、しょせん野暮でしかないだろう。 可能な限り速やかに視野の外へと追っ払うに如くはない。ましてやそれがカネになるなら尚更だ。 (飛騨高山レトロミュージアムにて撮影) ――維新回天、王政復古、文明開化に際会し、当時の日…

「我関せず」は許されぬ ―阿鼻叫喚のベルギーよ―

戦争の長期化に従って「心の余裕」を加速度的になくしていった国民は、一にベルギー人だろう。 なんといっても「教皇」にすら噛みついている。 第一次世界大戦期間中、ベルギー人の手や口は、屡々当時のローマ教皇・ベネディクトゥス15世批難のために旋回し…

発狂した世界

悠々たるかな大襟度、鷹揚迫らざるをモットーとする大英帝国様々々も、いよいよ以ってケツに火が着いてきたらしい。 ある日、こんな誘い文句が新聞を通して発表された。より一層の志願兵を得るために、壮年男子――本人ではなく(・・・・)、彼らの背後(バッ…

愛国者たち ―フランス、エミール・ブートルー篇―

「平安・繁栄・名誉・進歩の実現せられる時代を吾々に与へやうとして父祖は己を犠牲にしたのである。吾々は父祖を裏切ることはできない。父祖が吾々の為に遺した生命と偉業との精神を維持することを吾々は父祖の為に努めねばならぬ。換言すれば民族的精神・…