2020-12-01から1ヶ月間の記事一覧
山梨は田舎だ。 変化に乏しい。 時間は駘蕩としてゆるゆる流れる。 が、停滞までには至らない。あくまで「乏しい」のであって、絶無といっては言い過ぎになる。 差異を求めてそこらを歩き、直面しては切なさに心慄わせるのも、私にとっては帰省の際の趣味の…
明治維新は漢学を、ひいてはその背景をなす漢文明の価値そのものを叩き落とした。 地の底までといっていい。まるで瘧の落ちるが如き容易さで、日本人は「中華」の魅力に不感症になったのだ。 それを象徴する顕著な例が、漢学書籍の投げ売りである。 牧師にし…
日就社が東京芝の琴平町に拠点を移し、新聞事業に手を染めたのは、明治七年十一月二日付けのことだった。 いわゆる読売新聞である。 (Wikipediaより、読売新聞創刊号) いま、私はさりげなく「読売」と書いたが、さてこそこの題字こそ、数多の事前準備の中…
人間の智慧がいちばん輝かしく発動するのはひょっとして、言い訳を考えているときかも知れない。 涙を流し、情に訴え、もっともらしい理屈を捏ね上げ。 自分が如何に憐れむべきいきものかを分かってもらい、少しでも頽勢を挽回しようと。 平常時なら思いもよ…
夢を見た。 転換激しい夢である。 最初は確か、工場だった。 私は灰色がかった作業服を着てベルトコンベアの前に立ち、延々と運ばれてくるプラ容器にハンバーグを詰める作業に没頭していた。 このあたり、背景を探るに難はない。 間違いなく夕飯の献立の影響…
福島県の復興に、政府が意欲を示したそうだ。 第一原発周辺の十二市町村へ移住する者に対しては、最大二百万円の支援金を与えるということである。 更に移住後五年以内に起業するなら、必要経費の四分の三――最大四百万円まで――を、向うが持って(・・・)く…
失態である。 前々から予定されていた明治神宮の鎮座祭――竣工したての御社(みやしろ)に、明治大帝の御霊を招く何より大事な神道儀式――の当日に、よりにもよって表参道の地面の一部が陥没したのだ。 五十万もの参拝客が文字通り殺到した所為でもあろうが、…
産業革命が実を結び、英国工業が黄金期を迎えつつあったあの時代。輝きが強ければ強いほど、影もより濃くなってゆく――そんな調子の俗説を、態々証明するかのように。 彼の地に蔓延る煤煙ときたら尋常一様の域でなく、ロンドンをして文字通り、暗黒の霧に鎖し…
以下はほとんど信ずべからざるエピソードだが、発信者のフィリップ・アーマンド・ギブス卿はあくまでも、「真実」と主張して譲らない。 第一次世界大戦の真っ最中に、英国国王ジョージ5世がドーバー海峡をひょいと跨いで、フランス首脳部と心温まるご交流を…
『サイバーパンク2077』が面白い。熱中し過ぎて、ブログに廻す気力さえ、ともすれば残らなくなりそうだ。 陰謀、暴力、裏切り、堕落――物語の舞台となるナイトシティは混沌たるエネルギーに満たされきった都市であり、その点極めて魅力的な場所である。 街を…
毒が残っているやも知れない、素人捌きのフグ鍋を、好んで囲んだ江戸っ子のように。 あるいは狭い室内で、無数の兎を撃ちまくり、点数を競った仏人のように。 男というのは度胸試しが好きでたまらぬいきものだ。 (長谷川哲也『ナポレオン ―覇道進撃―』1巻)…
詩(うた)がある。 ここ幾日か触れて来た、室戸岬にまつわる詩だ。 折角なので紹介したい。 こゝは四国の南端の日本八景随一の黒潮高鳴る室戸岬 豪宕(ごうゆう)雄大たぐひなき奇岩乱立狂ひ獅子波はくだけて花と散る 霊気遍満東寺(あづまでら)千古の法燈…
マグロ漁が盛んになる前、室戸岬は捕鯨で鳴らした土地だった。 幕末四賢侯が一、「土佐の老公」山内容堂が鯨海酔侯を号したように。 土佐の海には鯨が泳ぎ、ときに多過ぎるほど出没し、集団座礁(マス・ストランディング)を起こしては、臭気と悪疫の源と化…
千葉県銚子の港から、東に1700マイル。 太平洋のど真ん中で、二隻は出逢った。 方や日本の木造漁船、方やアメリカの石油タンカー。四十トン級がせいぜいな前者に対し、後者は圧巻の一万六千トン級だから、目方の隔絶ぶりたるや、大人と子供以上のものがあっ…
「北海道では馬乗りでなければ選挙に勝てない。内山吉太が屡々勝利を博し得たのも、馬術に長じていたのが第一だ」 北海道の特殊性を表現するに、楚人冠はこのような論法を以ってした。 彼の地は広い。東北六県に新潟県を併せてもなお幾許(いくばく)か及ば…
引き続き、『学府と学風』に関して記す。 前回は書き込みばかりで少しも内容に触れられなかった。 今回はここを補ってみたい。 本書の中で小泉は、よく日清戦争の当時に於いて福澤諭吉が如何な態度を示したかを引き合いに出す。現在進行形で支那を相手に戦火…
前の持ち主が意外な有名人だった。 昭和十四年発行、小泉信三著『学府と学風』のことである。 だいたい昭和十二年から十四年までの期間に於いて、小泉が行った講演・演説・祝辞の類を纏めた本書。その奥付に、以下の書き込みを発見したのだ。 昭和十四年十一…