2021-07-01から1ヶ月間の記事一覧
どうも近ごろ、夢を見ない。 もしくは、見てもすぐに忘れてしまう。 今朝方からしてそうだった。何か、長大なドラマの展開を目の当たりにした感じがするが、さてその詳細はというと、言葉に詰まらざるを得ぬ。 唯一はっきり憶えているのは、『彼岸島』の主人…
人間というのはなんとまあ、一ツところを飽きもせず、堂々巡りばかりしているいきものか。 ロブスターを生きたまま茹でるのは動物虐待、人非人と呼ぶ以外にない言語道断の所業なりと、こう批判する風潮は、べつだん昨日今日に出来上がったものでない。 九十…
犯罪ではあるのだが、否、むしろ犯罪であるがゆえにこそ。 密造という行為には、妙に浪漫を掻き立てられるものがある。 敗戦直後、苛酷なまでの課税によって価格が鰻登りに高騰したのはなにも酒のみに限らない。 煙草もまた同様だった。 具体例をとって示そ…
所詮私も人畜生。 己に近きを貴(たか)しとし、逆に遠きを卑(ひく)しと見たがるこの厄介な性質を、厄介と承知しておきながらしかしどうにも振り払えない。 これまでにも幾度か触れたが私は徳川家康を、日本史上最大最強の英雄として心の底から敬慕してい…
先日紹介させてもらった『酒のみとタバコ党のバイブル』は、繰り言になるが月刊雑誌の亜種である。 雑誌なだけに、広告がふんだんに載せられている。 扱っているテーマがテーマだからであろうか。胃の薬だの保険だの、健康絡みの商品がとかく目につく印象だ…
――おそるべきことに。 酔っ払いたさに工業用アルコールをあおって(・・・・)いたのは、ひとりロシア人ばかりではない。 我々日本人も同様だった。 いわゆるバクダン焼酎である。敗戦直後の短期といえど、それは確かにあったのだ。 「なにもかも酒手の暴騰…
アメリカ屈指の名門校、バージニア大学。 細部にまで粋を凝らしたその建築は荘厳以外のなにものでもなく、「世界最美のキャンパス」として讃えられるも納得であり。また正門には以下の警句が彫り刻まれて、学生たちの襟と背筋を正させるのに大いに貢献したそ…
1931年10月5日、偉業が成された。 ヒュー・ハーンドン。 クライド・パングボーン。 それぞれ26歳と35歳、米国籍のパイロット。この両名の手によって、人類史上初めての、太平洋無着陸横断飛行が果たされたのだ。 (Wikipediaより、訪日時のパングボーンとハ…
前回の補遺として、少し書く。 引用元にさせてもらった武藤山治の『思ふまま』とは、彼が時事新報に連載していた同名のコラムをすぐって(・・・・)一書にまとめたモノだ。 なんといっても毎号欠かさずの執筆という驚異的な代物のため、その記事数は相当以…
本邦新聞カラー刷りの草分けは、どうも武藤山治と、彼を社長に戴いて以後の時事新報に見出せるらしい。 昭和八年四月二十五日のコラムにて、武藤はこんな記述を残した。 …一方ラジオは、日夜音楽を放送して耳によい感じを与へる今日の世の中に、新聞紙が全面…
奇癖といえば、鈴木三重吉を外せない。 この漱石門下の文学者、児童雑誌『赤い鳥』の主宰人に関しては、最初の方でわずかに触れた。そう、欧州大戦勃発時、「愉快な戦争」なるドギツイ題の稿をしたため、 ――私は世界的の大戦争になって来たのがわけもなく愉…
紀行文を読んでいるとどうしても、小泉信三を思い出す。 慶応義塾出身の経済学者で、平成天皇、すなわち現在の上皇陛下の教育役にあずかりもしたこの男には、しかしながら奇癖があった。 それは正月三が日の間じゅう、雲隠れをきめ込むという癖である。 だい…
シアトルを出航してから一週間後、昭和七年八月五日。六千トン級旅客船、ユーコン丸はスワードの港に碇を下ろした。 二十世紀の当時に於いても、二十一世紀の今日でも。キーナイ半島東岸に開けたこの街が、アラスカ鉄道の終点であるのに変わりはない。 (Wik…
『アラスカ日記』を読んでいる。 昭和七年、同地を歩いた満鉄社員、矢部茂による旅行記だ。 戦前といえど、欧米にまつわる紀行文は山とある。 南洋だってそれなり以上の数に及ぼう。 だがアラスカとなると至って稀で、現状私の蔵書に於いてはこの一冊がある…
己が名前を千載にとどむ、決定的な要因にも拘らず。 「弾劾演説」に触れられることを、尾崎は厭うていたという。 (Wikipediaより、桂太郎弾劾演説) 左様、弾劾演説。 大正二年二月五日、第三十帝国議会の本会議にて。尾崎行雄が不倶戴天の敵手たる――なにせ…