穢銀杏狐月

穢銀杏狐月

事は起すに易く、守るに難く、其終りを全くすること更に難し。努力あるのみ。一途に奮励努力せよ。

私的撰集

与謝野夫妻と山本実彦 ―屏風の歌に在りし日を偲ぶ―

晩年、渋沢栄一は、「論語」を書きつけた屏風をつくり、その中で寝起きすることを何よりの愉快としたらしいが、改造社社長、山本実彦も似たような逸話を持っている。 彼の場合、屏風に墨を入れたのは、与謝野鉄幹と晶子の夫妻に他ならなかった。 (左から、…

英国精神小話四撰

Ⅰ 贋金造りで逮捕されたその男性は、審理の席で自分が如何にみじめな境遇に置かれていたかを泣くような声でアピールし、以って衆の同情を誘い、情状酌量の余地を一寸でも拡大すべく努力した。 「――このようなわけで、私は家賃の調達すらままならず、人並みの…

鮎川義介漢詩撰集

元日産自動車株式会社役員という繋がりゆえか。 衆議院議員・朝倉毎人が鮎川義介を題材に編んだ漢詩は数多い。 (朝倉毎人) その中から特に秀逸と感じたものを得手勝手に抄出すると、大方次のようになる。 雲煙飛躍満華箋描出毫鉾画裏仙餘技義翁能若此朝昏…

中条流川柳私的撰集 ―「ママにあいたい」の衝撃から―

つい先日、「ママにあいたい」というフリーゲームをプレイした。 オープニングの時点で両腕を欠損している主人公が、母親にあいたい一心で、同じく色々と失っている兄弟姉妹の力を借りつつ、ひび割れや血痕の目立つ謎空間から脱け出そうと奮闘する作品だ。 …

ハワイ王国と日本人 ―『日本魂による論語解釈』和歌撰集・番外編―

【不如諸夏之亡】 詳しくは、「夷狄之有君、不如諸夏之亡也」。夷狄の君有るは、諸夏の(君)亡きが如くならず――夷狄でさえ君主を戴くこと、その重要さを心得ており、みすみすそれをぶち壊しにしてしまった我が中華のようではない。 もっともこの項には別の…

『日本魂による論語解釈』和歌撰集 ―尾崎行雄と「事君尽礼」―

【事君尽礼】 詳しくは、「事君尽礼、人以為諂也」。君に事(つか)ふるに礼を尽くさば、人以ってへつらいと為すなり。 礼儀正しくふるまう姿を斜めに見、なにをおべっか使っていやがる、鼻持ちならないゴマすり野郎めと冷笑する手合いというのは確かに居る…

『日本魂による論語解釈』和歌撰集 ―文献不足・壁の中の書―

【文献不足】 詳しくは、「子曰、夏禮吾能言之、杞不足徴也、殷禮吾能言之、宋不足徴也、文献不足故也、足則吾能徴之矣」。 孔子は夏の国の礼について、十分語ることが出来た。しかしながら夏の後に興った杞国については、詳しく検証することが出来なかった…

『日本魂による論語解釈』和歌撰集 ―巧言令色・吾日三省―

【吾日三省吾身】 詳しくは「曾子曰、吾日三省吾身、 為人謀而忠乎、 与朋友交言而不信乎、 伝不習乎」。 孔子の高弟に曾子という人物が居た。 (曾子) 彼は日に三度、欠かさず我が身を振り返ったという。即ち、 一、人の為に真剣に物事を考えてあげられた…

『日本魂による論語解釈』和歌撰集 ―孝道編―

論語は天下第一の歌書なり、歌を詠まんと欲せば、先づ論語を読むべし。 江戸時代後期の歌人、香川景樹の言葉である。 景樹に限らず、難解な哲学書を解読するにうたごころ(・・・・・)を以って鍵と為し、更には噛み砕いた内容を、五・七・五の形式に昇華さ…

三たび諫めて聴かざれば ―歌の背景―

三たび諫めて聴かざれば腹に窓あけ死出の旅 四書五経の一つでもある『礼記』には、次のように記されている。 「君に過ち有れば則諫め、三度諫めて聴かざれば去るべし」と。 臣下たるもの、主君の過ちに気付いたならば三度まではこれを諌めよ。もし三度諌めて…

『現代世相漫画』私的撰集 其之弐

この「準備教育」は、本書の中でも特に出来のいい作品だと感心している。 頭の中で注射された科目曰く「オイ、もっと其方に寄れ、俺の入る処がない」「入る処が無ければ出て了へ。よく考へてみろ、一升桝へ一斗の米が入るか」 エネルギー曰く「待て待て、俺…

『現代世相漫画』私的撰集 其之壱

ここに『現代世相漫画』という古書がある。 発刊は、昭和三年三月十五日。 その名の通り、当時をときめく漫画家たちが筆を集めて存分に社会風刺を加えた本だ。 そう、漫画で以って日本社会を風刺したのはひとりビゴーのみにあらず。 日本人による、日本のた…

続・いろは歌撰集

▼▼▼前回の「いろは歌撰集」▼▼▼ い 出や此世に生れては ろ 露命も僅か朝顔の は 花の盛りも僅かなり に 憎き可愛ゆき薄きうち ほ 恣(ほ)しき憎きの薄きうち へ 片時も油断すべからず と 兎に角勇み読書(よみかき)は ち 力づくには行かんぞよ り 利口の人…

生臭坊主の化け医者遊び

織田信長が比叡山を焼き討ちした際、突き殺されて炎の中に投げ込まれた死体の中に、数百の女子供が混じっていたのは有名な話だ。 多くの聖域がそう(・・)であるように、王城の鬼門封じに相当する至高至尊のこの巨刹にも、女人禁制の結界が張られているはず…

稲葉厵隣の「いろは歌」 ―古本まつりの収穫物―

目下開催中の第60回神田古本まつりに於いて、良書を得た。 昭和九年刊行、羽太鋭治著、『浮世秘帖』なる本である。 本の概要や著者の経歴などはまた別の機会に譲るとして、今回特筆大書しておきたいのは、この中に掲載されている「いろは歌」についてこそ。 …

「真情春雨衣」都都逸撰集 ―発禁指定の江戸艶本より―

ここに『未刊珍本集成 第四輯』なる本がある。 昭和九年印刷。その名の通り、発禁を喰らい世に出ることを許されなかった書籍を集めた本である。 はて、ならばこの本とても発禁を喰らって然るべきではないかと当然の疑問が持ち上がるが、何のことはない、奥付…

都都逸撰集

赤い顔してお酒を呑んで今朝の勘定で蒼くなる 人の営みの普遍性に感じ入るのはこういうときだ。人間とは似たような愚行を性懲りもなく重ねつつ、歴史を編んでゆくものらしい。 人情の機微を赤裸々に、しかも陽気に表現する術として、都都逸(どどいつ)は川…

『柳樽』川柳私的撰集 ―其之弐―

里のない 女所(にょうぼう)は井戸で 怖がらせ 井戸をどうやって脅しの道具に使うのかというと、こういう次第だ。 まず、袂に重そうな石をどっさり詰め込む。 身がずっしりと重くなったところで、次に井戸の縁に腰を下ろして体を揺らし、今にも落下しかねな…

『柳樽』川柳私的撰集 ―其之壱―

日本人はユーモアセンスの欠落した民族である。そんな指摘を事あるごとに耳にするが、私はこれに賛同できない。 何故なら、川柳というものがある。 痛烈骨を刺す諷刺をたった十七文字に凝縮させて、しかも軽妙洒脱な爽快さを失わない川柳という文芸は、まっ…

「方言歌」撰集 ―熊本・大島・飛騨・出雲・長崎―

雲州にては人の来たりたるをキラレタといふ語習がある、同国人或る地方に在勤し、県知事汽船にて来着せるを県庁へ打電して、「イマ知事汽船ニテキラレ」と伝へたる為に、大いに県庁を騒かしたといふ(『日本周遊奇談』330頁) 電報にまつわる奇談である。 確…

わらべうたに顕れたる幼さゆえの残酷さ ―生田春月の童心論―

蝙蝠こ蝙蝠こ汝(にし)が草履(ぢょうり)はくそ草履俺が草履は金(かね)草履(ぢょうり)欲しけりゃ呉れべえや およそ一世紀前、明治・大正の昔。 鄙びた地方の子供たちは、こう歌いつつ下駄や草履といった履物を蝙蝠めがけて蹴り飛ばしていたという。 歌…

「数え唄」撰集

一にいづめられ 二に睨められ 三にさばかれ 四に叱られて 五にごきはぎ洗ひすすぎさせられて 六にろくなもの被せられないで 七に質屋にちょとはせさせて 八にはづかれ 九にくどかれて 十にところをほったてられた 青森県は弘前に歌い継がれる数え唄。「津軽…

『殉国憲兵の遺書』辞世撰集 ―英国編・其之弐―

新世(あらたよ)を固めなすべく吾も今戦友(とも)を慕ひてなき数に入る 仇風に露と消(け)ぬるはいとはねど心にかかる妻の行末 たよるべき杖と柱を失ひしいとし妻子の道は険しき われ逝きて妻のはぐくむ一人児を護りましませ天地の神 わが妻の哭きになき…

『殉国憲兵の遺書』辞世撰集 ―英国編・其之壱―

汁粥の乏しき糧に身は細り分ちかねけり鉄窓(まど)の雀に ますらをは弓矢のほかの憂き日にも国を念ひて心揺らがじ 皇国ののちの栄えを祈りつつ御勅かしこみ処刑場に立つ 国の為つくせし事のあだ花と散り行く我はあはれなりけり 靖国の戦友(とも)の御前に…

『殉国憲兵の遺書』辞世撰集 ―中国編・其之弐―

日の本はまぼろしの国夢の国なつかしの国還れざる国(陸軍憲兵准尉安藤茂樹、広東に於いて刑死) 戦後連合諸国が行った裁判とやらが、その実法もへったくれもない単なる感情任せの復讐行為であったのは既に常識と化しているが、中でも広東で開かれた「法廷」…

『殉国憲兵の遺書』辞世撰集 ―中国編・其之壱―

桜花笑って散らう国の為 大日本帝国陸軍憲兵曹長、小谷野正七(28)が北京に於いて銃殺刑に処される直前、最後に詠んだ詩である。 氏はこれを、ちり紙に書き付け辛うじて残した。 蒋介石は降伏した軍人に、遺書をしたためる紙すら与えなかったのかと思うと名…

諧謔世界笑話私的撰集 ―職業・金銭・その他諸々―

変った答 一人の書記「君の会社では何人働いて居ます」 もう一人の書記「ざっと申しますと、総人数の三分の一」 何となれば 教会堂の前の掲示板に日曜日の晩の説教の題が張出してある。其中に「何故に悪人は生存するか」と云ふのがあった。近くへ寄ってよく…

諧謔世界笑話私的撰集 ―罪人・弁護士・医者―

裁判所 「此頃英国から御帰朝でしたか。彼国(あっち)の裁判所は大層よく整ってゐるさうですが、ご覧になった事が有りますか」「はい。ええ、ですがたった一度きりです。それもほんの少々ばかりの罰金で済みました」 真平々々 新聞記者少し遅れて法廷に来た…

諧謔世界笑話私的撰集 ―男と女・夫婦関係―

昔と今 妻「あなたは私があなたの生活の光明であるとおっしゃったじゃありませんか」 夫「うん、けれどもその時はその光明を出させるのにどの位費用が要るといふ処に気が付かなかった」 没理家(わからずや)なればこそ 妻「お前さんの様な理屈の分曉(わか…

諧謔世界笑話私的撰集 ―酒―

大酒 「何故貴様は大酒を飲むのだ」「酒の中へ苦労の種を沈めて殺さうと思ひまして」「ふう、何か、それで殺し果(おお)せたか」「ところが彼奴らは泳ぎを知って居るか、浮いて廻って沈みませぬ」 乞食とウイスキー 紳士「お前の親爺は何故働かないで乞食な…