穢銀杏狐月

穢銀杏狐月

事は起すに易く、守るに難く、其終りを全くすること更に難し。努力あるのみ。一途に奮励努力せよ。

私的撰集

雑誌広告私的撰集 ―昭和26年のウィルキンソン炭酸水―

先日紹介させてもらった『酒のみとタバコ党のバイブル』は、繰り言になるが月刊雑誌の亜種である。 雑誌なだけに、広告がふんだんに載せられている。 扱っているテーマがテーマだからであろうか。胃の薬だの保険だの、健康絡みの商品がとかく目につく印象だ…

国家の消長 ―かつて日本は広かった―

古書を味読していると思わぬ齟齬にぶちあたり、はてなと首を傾げることが偶にある。 最近ではオーストラリアの総面積を「日本のおよそ十一倍」と説明している本があり、ページをめくる指の動きを止められた。 ――いやいや、かの濠洲が、そんなに狭いわけがな…

言霊の幸ふ国に相応しき ―歌にまつわる綺譚撰集―

中根左太夫という武士がいた。 身分は卑(ひく)い。数十年前、末端部署の書役に任ぜられてからというもの、一度も移動の声がない。来る日も来る日も無味乾燥な記録・清書に明け暮れて、知らぬ間に歳をとってしまった。ふと気が付けば頭にも、だいぶ白いもの…

たまの寄り道 ―椿一郎詩作撰集―

そのころの竹柏会に椿一郎なる人がいた。 千葉県北部――茨城県と境を接する香取郡は米沢村の農家であって、最初の歌集『農人の歌』を出版したとき、すなわち昭和九年の段に於いては、親子五人と馬一頭、それから鶏二十四羽というのがおおよその家族構成であっ…

古き文士の女性観 ―この窮屈な現世こそ―

生方敏郎、 竹久夢二、 徳冨蘆花、 小酒井不木――。 文芸史上に光彩陸離たるこの人々も、しかし時折女性に対してひどく辛辣なことを言う。 お前ら女関係で、何かコッピドイ目に遭ったのかと勘繰らずには居られぬほどに。 生田春月はそれが、それのみが男の偉…

嗚呼みちのくに電波舞う ―東北ラジオ開局の歌―

奥の細道ラヂオで拓け四方の便りも居ながらに はやて来るよとラヂオの知らせ着けよ船々鹽釜へ さあさ漕げ々々ラヂオで聴いた沖は凪だよ大漁船 仙台局の放送開始を記念して、と『マイク放談』(昭和十年、国米藤吉著)には書いてあるから、おそらく昭和三年六…

とある維新志士のうた

窓近き竹のそよぎも音絶えて月影うすき雪のあけぼの この歌の詠み手の名を知るや、私が受けた衝撃は、ほとんど玄翁でこめかみを強打されたのと大差ない。 山縣有朋なのである。 それも十三歳のころ、辰之助の幼名時代の作というからいよいよ驚く。 あの沈毅…

「紙漉唄」私的撰集

令和三年の太陽が、二回昇って二度落ちた。 冷たく冴え徹った蒼天に、鮮やかな軌跡を描いていった。 新年の感慨、意気込みの表し方は人それぞれだ。清新の気を筆にふくませ、書初めを嗜む方とて少なからず居るだろう。 故に私も趣向を凝らす。和紙に纏わる詩…

「言い訳」撰集 ―末廣鉄腸、明治八年「曙新聞」社告篇―

人間の智慧がいちばん輝かしく発動するのはひょっとして、言い訳を考えているときかも知れない。 涙を流し、情に訴え、もっともらしい理屈を捏ね上げ。 自分が如何に憐れむべきいきものかを分かってもらい、少しでも頽勢を挽回しようと。 平常時なら思いもよ…

酒、酒、酒、酒 ―このかけがえなき嗜好品―

ドイツがまだワイマール共和国と呼ばれていたころの話だ。 第十二代首相ブリューニングの名の下に、ビール税の大幅引き上げが決定されるや、たちどころに国内は、千の鼎がいっぺんに沸騰したかの如き大騒擾に包まれた。 もともと不満が鬱積している。 政治家…

最期の言葉・外伝 ―「夢」を含む辞世撰集―

辞世の句を刻むとき、「夢」の一字を挿みたがる手合いは多い。 なんといっても、天下人からしてそうである。豊臣秀吉が 露と落ち露と消えにし我が身かな浪速のことも夢のまた夢 と吟じれば、徳川家康、 うれしやと二度(ふたたび)さめてひとねむり浮世の夢…

最期の言葉 ―「辞世の句」私的撰集―

天保七年というから、ちょうど「天保の大飢饉」の只中である。信濃国水内郡丹波村の近郊で、行き倒れた男の死体が見つかった。 ざっと見歳は五十内外、持ち物は杖と笠のみであって、そのうち杖には紙片が結わえられており、開くと次の一首が認められていたと…

霊威あふるる和歌撰集 ―「神術霊妙秘蔵書」より―

力をも入れずして天地を動かし、目に見えぬ鬼神をもあはれと思はせ、男女の仲をも和らげ、猛き武士の心をも慰むるは、歌なり。 古今和歌集「仮名序」からの抜粋である。 王朝時代の貴族らは、和歌の効能というものをこんな具合に見積もっていた。 要するに和…

非常時に於ける詩人の貢献

十徳の一つ、「毎號大家の傑作を満載するキング」そのままに。 「非常時国民大会」は少なからぬ文化人の力添えあって完成している。 それは漫画家のみならず、詩人もまた同様だ。 北原白秋、篠原春雨、土井晩翠、川路柳虹――実に豪華な顔触れである。 折角な…

昭和八年の「キング」十徳 ―諷刺画を添えて―

キング十徳 ○面白い点では天下第一のキング○楽しみながら修養出来るキング○世の中のことは何でもわかるキング○読者のためには努力を惜しまぬキング○毎號大家の傑作を満載するキング○いつも新計画で天下を驚かすキング○どんな人にもよろこばれるキング○国を良…

三四半世紀 ―75年目―

八月十五日である。 多くは語るまい。 ただ、この日にこそ開くに相応しい本がある。 以下を縁(よすが)に、共に先人を偲んでくれればありがたい。 身はたとえ南の孤島に朽ちるとも永久に護らん神州の空義烈空挺隊 新藤勝 何時征くか何時散るのかは知らねど…

「二十年の停戦」へ ―続々々・ドイツ兵士の書簡撰集―

1918年11月13日、西部戦線の片隅で一人のドイツ軍人が自殺した。 それも自己の掌握する部隊を率いて本国に帰還せよ、と命ぜられた直後の自殺であった。 遡ること2日前、フランス、コンピエーニュの森に於いて、ドイツは連合国との間に休戦協定を締結している…

偉大なる勝利のために ―続々・ドイツ兵士の書簡撰集―

前線に在る多くの兵士が認めることを余儀なくされた。 戦争は変わった、という事実を、である。 ハンス・ブライトハウプトもまた、高い授業料を支払って、教訓を得た一人であった。 私たちははじめは、ほとんど子供のやうに真正直に正攻法によって攻撃しまし…

戦場のピアニストたち ―続・ドイツ兵士の書簡撰集―

第26予備猟兵大隊所属、オットー・クレーエルが「戦場のピアニスト」になったのは、1914年11月1日未明、制圧した村落の一邸宅に於いてであった。 その屋敷は戦闘の余波をもろに受け、大広間には砲弾が飛び込んだ痕があり、 高価な夜具も、 磨き立てられた鏡…

魂叫 ―ドイツ兵士の書簡撰集―

ただならぬ本を手に入れた。 表題は『最後の手紙』。その名の通り、第一次世界大戦当時のドイツに於いて前線の兵士が書き送った手紙類をまとめたものだ。 帝政ドイツ版『世紀の遺書』といっていい。 「俺に弾丸が当たるものか」と大見得を切ったその直後、腕…

大震災にまつわる川柳

権兵衛のやがて耕す焼野原 五七五の定型的に考えて、公称である「ごんのひょうえ」よりも「ごんべえ」と読むのが正しかろう。 言うまでもなく、関東大震災の翌日に組閣された第二次山本内閣を題材とした川柳である。 (Wikipediaより、山本権兵衛) 以前にも…

与謝野夫妻と山本実彦 ―屏風の歌に在りし日を偲ぶ―

晩年、渋沢栄一は、「論語」を書きつけた屏風をつくり、その中で寝起きすることを何よりの愉快としたらしいが、改造社社長、山本実彦も似たような逸話を持っている。 彼の場合、屏風に墨を入れたのは、与謝野鉄幹と晶子の夫妻に他ならなかった。 (左から、…

英国精神小話四撰

Ⅰ 贋金造りで逮捕されたその男性は、審理の席で自分が如何にみじめな境遇に置かれていたかを泣くような声でアピールし、以って衆の同情を誘い、情状酌量の余地を一寸でも拡大すべく努力した。 「――このようなわけで、私は家賃の調達すらままならず、人並みの…

鮎川義介漢詩撰集

元日産自動車株式会社役員という繋がりゆえか。 衆議院議員・朝倉毎人が鮎川義介を題材に編んだ漢詩は数多い。 (朝倉毎人) その中から特に秀逸と感じたものを得手勝手に抄出すると、大方次のようになる。 雲煙飛躍満華箋描出毫鉾画裏仙餘技義翁能若此朝昏…

中条流川柳私的撰集 ―「ママにあいたい」の衝撃から―

つい先日、「ママにあいたい」というフリーゲームをプレイした。 オープニングの時点で両腕を欠損している主人公が、母親にあいたい一心で、同じく色々と失っている兄弟姉妹の力を借りつつ、ひび割れや血痕の目立つ謎空間から脱け出そうと奮闘する作品だ。 …

ハワイ王国と日本人 ―『日本魂による論語解釈』和歌撰集・番外編―

【不如諸夏之亡】 詳しくは、「夷狄之有君、不如諸夏之亡也」。夷狄の君有るは、諸夏の(君)亡きが如くならず――夷狄でさえ君主を戴くこと、その重要さを心得ており、みすみすそれをぶち壊しにしてしまった我が中華のようではない。 もっともこの項には別の…

『日本魂による論語解釈』和歌撰集 ―尾崎行雄と「事君尽礼」―

【事君尽礼】 詳しくは、「事君尽礼、人以為諂也」。君に事(つか)ふるに礼を尽くさば、人以ってへつらいと為すなり。 礼儀正しくふるまう姿を斜めに見、なにをおべっか使っていやがる、鼻持ちならないゴマすり野郎めと冷笑する手合いというのは確かに居る…

『日本魂による論語解釈』和歌撰集 ―文献不足・壁の中の書―

【文献不足】 詳しくは、「子曰、夏禮吾能言之、杞不足徴也、殷禮吾能言之、宋不足徴也、文献不足故也、足則吾能徴之矣」。 孔子は夏の国の礼について、十分語ることが出来た。しかしながら夏の後に興った杞国については、詳しく検証することが出来なかった…

『日本魂による論語解釈』和歌撰集 ―巧言令色・吾日三省―

【吾日三省吾身】 詳しくは「曾子曰、吾日三省吾身、 為人謀而忠乎、 与朋友交言而不信乎、 伝不習乎」。 孔子の高弟に曾子という人物が居た。 (曾子) 彼は日に三度、欠かさず我が身を振り返ったという。即ち、 一、人の為に真剣に物事を考えてあげられた…

『日本魂による論語解釈』和歌撰集 ―孝道編―

論語は天下第一の歌書なり、歌を詠まんと欲せば、先づ論語を読むべし。 江戸時代後期の歌人、香川景樹の言葉である。 景樹に限らず、難解な哲学書を解読するにうたごころ(・・・・・)を以って鍵と為し、更には噛み砕いた内容を、五・七・五の形式に昇華さ…