穢銀杏狐月

書痴の廻廊

事は起すに易く、守るに難く、其終りを全くすること更に難し。努力あるのみ。一途に奮励努力せよ。

※当ブログの記事には広告・プロモーションが含まれます

2025-05-01から1ヶ月間の記事一覧

詐欺と武略の境界

敗戦間もない混迷期。「真相箱」やら何やらに影響された国民が、嘗ての政府や軍人を、嘘と虚像と捏造の総本山と糾弾し、「大本営発表」の空々しさをあげつらうのが流行りになっていた時代。 とある保守派論客が逆上気味に吼えたところの、 「戦争中に本当の…

終末予言は此処に成り

世界のすべてを巻き込んだ、人類最初の大戦争の期間中。 前線の悲惨な状況が銃後に浸透するにつれ、一般国民大衆の心理上にもあからさまな物狂いの兆候が、そこかしこに見えだした。 (viprpg『フレイミング リターンズ』より) 帝政ドイツでいっときながら…

言葉の達人

石黒忠悳が貴族院勅撰議員にえらばれたのは、明治三十五年のはなし。時あたかも第一次桂内閣が日本国の舵取りを担当していた頃である。 (Wikipediaより、貴族院 玉座) しかしながらこの選任は、べつに石黒本人が希望(のぞ)んだものでは有り得なかった。…

おんな狩人

女だてらに鳥撃ちとは珍しい。 ましてや大正の聖代に。──時代の空気に背くこと、おてんばどころの騒ぎではない、モダン・ガールともまた違う、破天荒な気性によって、世間の耳目をだいぶどよめかせた女性(ひと)は、大阪市に住む堤とみ子なる婦人。 同市に…

七転八倒赤十字

社史を紐解けば大抵どこの企業でも創業間もない時分には、針山の上で火の車を廻すが如き苛酷な遣り繰り算段を経ているものであるのだが。──日本赤十字社という知らぬ者なき医療団体の上にさえ、およそその種の「苦労話」は見出せる。 (Wikipediaより、日本…

永らえし者

皇帝蒙塵。──敗戦国の悲況に堕ちたドイツを捨てて、ヴィルヘルムⅡ世は逃げ出した。 (Wikipediaより、ヴィルヘルムⅡ世) 理屈は立つ。 名目はいくらでも並べ得る。 「亡命」という政治的な用語を被せ、正当性の補強工事を行う余地はたん(・・)とある。 し…

怨嗟のニッティ

イタリアには怨念がある。 第一次世界大戦酣なる秋(とき)、連合側で参戦する見返りに、英仏が約した蜜のような条件を、戦後ごっそり反故にされた怨念が。 期待が大きかっただけ、失望もまたのっぴきならない水準に。このためいっとき講和会議の舞台から、…

郷党意識 ─吉田と原と─

平民宰相・原敬が暗殺者の兇刃を胸にぶち込まれたところ。 東京駅の一隅の、まさにその場所、その座標の床面に菱形の化粧レンガを嵌め込んで目印としておいたのは、吉田十一(そいち)の働きに因る。 二代目東京駅長を務めたこの人物は、原と同じく、岩手県…

マリー・ベルという女

社会に於いて「映画」の占める勢力が、政治家にも実業家にも――誰にとっても無視できないほど拡大してきたあの(・・)時分。 その勃興の勢いの、あんまりにもな著しさを不気味がり、なんとか頭を抑えんと手練手管を弄す手合いも、当然ながら存在していた。そ…

すすてんしやの船に乗り

開国以来、宣教師らの熱意あふるる懸命な働きぶりがあったのにも拘らず、ついに日本社会には、キリスト教が勢力として大を誇るを得なかった。 この失敗の淵源は、果たして何処(いずこ)にこそ在りや。 ──あまりに明白、聖書の翻訳作業に際し、人を得られな…

国産映画前夜譚

大正から昭和へと、世が移らんとした頃だ。国産奨励の掛け声が、ついに映画界にまで波及した。 日活の根岸耕一が、 「一年二百八十万」 と繰り返し、口やかましく言っている。大日本帝国が外国映画輸入のために年々支払う金額が、それぐらいになるのだ、と。…

代用品時代 ─生糸の光沢翳る時─

警鐘を鳴らす者がいた。 力いっぱい乱打したといっていい。 いずれ来る嵐の姿が彼の眼には鮮やかに幻視されていたからだ。 彼の名前は高岡斉。 大阪市立工業研究所のトップ、所長の任に在った男だ。 (称名寺にて撮影) この高岡の説くところを信ずれば、大…

黄金週間日野歩き

少し、日野市を歩きに行った。東京都のど真ん中、多摩川べりの街である。 (Wikipediaより、日野市位置) 新選組ゆかりの地として歴史好きの間では専ら名が知れている。土方歳三、井上源三郎を筆頭に、京に血雨を降らせまくった天然理心流の剣士、戦慄すべき…

政界ドブ浚い

藤山雷太がもしも今に在ったなら、その名に負けない、さだめし太(ブット)いカミナリを日本政府に落とすであろう。 彼はかつて言っていた、 「我が国の現在は真に内憂外患交々至ると云ふ悲しむべき状態で国民は此際非常なる覚悟と決心を以って国家の前途に…

五月一日 ─マルクス教徒の聖日に─

大学教授の政治活動を禁ずるという内規に対し、吉野作造はさからわなかった。 否、さからうどころの騒ぎではなく、両手を広げて頷いて、さもなりなんと積極的な賛意を示す側だった。 (viprpg『やみっちサッカー』より) 理由はすなわちこう(・・)である、…