夢を見た。
断崖を、延々下り続ける夢である。
それも『デスストランディング』に登場する、ロープ用パイルを使いながら。
パイルを突き刺し、ロープを垂らし、右に左にトラバースを繰り返しつつ下降してゆく。
ロープの限界、30メートル圏内に、次の下降の起点と為し得るポイント――パイルを刺すのに格好な岩棚を求めながら。
そんなことを幾度となく繰り返すうち、自分が取りついているこの壁のことも分かってきた。
大海原の真っ只中に聳え立った円柱だ。
円周は、そう大したことはない。どんなに多く見積もっても、20メートルは超えないだろう。
尋常でないのは高さの方だ。私が居るのは中腹あたりのはずなのに、その段階で既にもう、地球の丸さが見て取れる。
水平線が、はっきりと弧を描いて広がっているのだ。一万メートルか、下手をすればそれ以上。デスゾーン――どう足掻いても、人体が順応不能な高度。酸素濃度のあまりの薄さに、ただ呼吸しているだけで体力がどんどん削られてゆく――を余裕で超える数字であって、もし現実にこんな場所に居たのなら、何も出来ずに死ぬ以外のどんな可能性も残されていまい。
ましてや懸垂作業など、とてもとても。まさしく夢ならではの滅茶であった。
星に突き立てられた箸とも言うべき、そんなとんでもない代物を、ただひたすらに下りてゆく。
他の事件は何一つとして起こらない。
壁面にへばりつくが如く繁茂する緑の苔に時折心癒されながら、飽きもせずそのことばかりを繰り返す。
しかもそれで、奇妙なことだが、私は結構満たされていた。
熱中していたといっていい。
箸の例えにしろ、デスゾーン云々にしろ、すべて目覚めて以降に思いついた事柄だ。当時の私はまさしく夢中で、ただひたすらに行為自体を楽しんでいた。
この感覚は、『デスストランディング』という作品自体にもどこか通ずる。
荷物を背負って、オープンワールドを移動するだけ。ただそれだけのゲームであるのに、何故か不思議と中毒になる。
面白さを説明するのが難しい、なんとも評価に手を焼かされるゲームであるが、まさか夢にまで影響するとは。頭脳よりも、無意識――本能に訴える魅力があるということか?
ついでに一言しておくと、私は「箸」を下りきる前に夢から醒めた。
これで今夜の夢が「中断ポイント」から再開されたりしたならば、ホラーの気配も湧いて来るが、さて。
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