穢銀杏狐月

書痴の廻廊

事は起すに易く、守るに難く、其終りを全くすること更に難し。努力あるのみ。一途に奮励努力せよ。

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2021-11-01から1ヶ月間の記事一覧

臨時村会は風呂の中 ―別所温泉武勇伝―

下町風俗資料館ではこのような展示も行われていた。 五右衛門風呂にはじまって、 銭湯入口の再現と、入浴にまつわる諸々である。 日本人の風呂好きは、数百年の伝統を持つ。 なんといっても熱気濛々の湯船の中で村議会を開いてのけた豪傑連まで居たほどだ。…

上野公園探勝記 ―下町風俗資料館を中心に―

つい先日のことである。 上野恩賜公園の、下町風俗資料館を訪れた。 どんな施設か問われれば、返答(こた)えるに格好の例がある。私が平素愛読している数多の古書。ヤケ・シミ激しいこれらの本が、未だ刊行されて間もない時分――頬ずりしたくなるほどに綺麗…

めくるめく、めくるべく ―続・大南洋の世界観―

一人前の男になるため、フィジー島ではどうしても、殺人経験を必要とする。 妻を娶り、子をもうけ、円満な家庭を築くため、彼らは殺戮の機会を夢見、そのために日々努力した。 要するに、敵の返り血がそのまま結婚の資格になるわけだ。『ドラゴンクエストⅤ』…

力の継承 ―大南洋の世界観―

街路の落ち葉もずいぶん増えた。 晩秋の気配はすぐそこだ。太陽はいよいよつるべ落としに、呼気が白く染まる日もほど近かろうと思わせる。 夏の盛りに買い積んだ、南洋関連書籍の山を崩すにはもってこいの時期だろう。 満を持して取り組んでいる。その御蔭で…

天皇陛下の御節倹 ―廃物利用の道はあり―

稚子にせよ、女官にせよ。 明治大帝の印象を、近侍した多くが「倹素」と答える。 無用の費えを厭わせ給い、自制の上にも自制を重ね、浮華に流るる軽々しさを毫もお見せになられなかったと。 (明治天皇御真影) 夏の暑さがどれほど過酷であろうとも、 冬の寒…

明治神宮参詣記 ―すめらみくによ永遠に―

明治神宮は鮎川義介の愛した社だ。 総面積七十万平方メートルにも及ぶ、広い広いこの境内を、焦らず、ゆっくり、朝の清澄な大気によって肺を満たしながらゆく。彼の一日はそのようにして幕開ける。昭和三十六年以降、ほとんど毎日繰り返されたことだった。 …

大帝陛下の御痛心 ―朝鮮米は砂だらけ―

明治二十七年十月二十五日、石黒忠悳(ただのり)に勅が下った。 朝鮮半島へと渡り、戦地各所を巡視して来よとの命である。 翌日、直ちに広島大本営を出立したと記録にあるから、派遣自体は前々から決まっていたことなのだろう。 日清戦争の幕が切って落とさ…

夢路紀行抄 ―八本脚―

三日前、蜘蛛を始末した。 壁に張りつき、止まっているのを発見次第、ティッシュを引き抜き、ぱっと突き出し、果たして狙い過たず、圧殺してのけたのだ。 反射に等しい作業であった。 残骸を検め、確かに殺ったと安心し、ゴミ袋に叩き込みにゆくすがら、ふと…

大工と牢獄 ―江戸時代の奇妙な掟―

これもまた、みそぎ・はらえの亜種であろうか。 新たに獄舎を建てるたび、囚人がひとり、牢から消えた。 江戸時代、将軍家のお膝もとたる関東圏で行われていた風習である。 (Wikipediaより、江戸図屏風に見る初期の江戸) 消えた(・・・)といっても、べつ…

答志島の鳥 ―雉についての四方山話―

雉は麓の鳥である。 人里近くの藪や林に身を潜め、田畠を窺い、隙あらば農家の手掛けた耕作物をいけしゃあしゃあと啄みに来る。 皇居の森や赤坂御所、陸軍戸山学校、それに近衛騎兵聯隊駐屯地――空襲で焼け野原になるまでは、大東京のど真ん中でもこのあたり…