穢銀杏狐月

書痴の廻廊

事は起すに易く、守るに難く、其終りを全くすること更に難し。努力あるのみ。一途に奮励努力せよ。

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2023-08-01から1ヶ月間の記事一覧

ラジオを讃えよ ―黎明綺譚―

ラジオが世に出たあの当時、能力の限界を測るため、それは多くの実験が執り行われたものだった。 (Wikipediaより、レトロラジオ) 何ができて、何ができないのか。 誰にも未だ知られざる、隠された効果・効能が何処ぞに潜在してないか。 そういうことを把握…

どれほど高く昇ろうと

オートパイロットの発明は早い。 第二次世界大戦以前、1930年代半ばにはもう、北米大陸合衆国にて実用認可が下りている。 従来、大型旅客機は、運航に当たって最低二名の操縦士を要したが、オートパイロットを搭載してさえいるならば、一名でも構わぬと、思…

満願成就の時は今

「正義という言葉は美しいが、鉄砲・機関銃・軍艦・飛行機はなお美しい。何故なら正義も、力の伴うにあらざれば空虚な言葉にすぎないからである」 ベニート・ムッソリーニの発言だった。 (猛獣とたわむれるドゥーチェ) セオドア・ルーズベルトにも、よく似…

数は支配す

先日の記事に、およそ一名、とりこぼしがあったことに気がついた。 松陰吉田寅次郎である。 (Wikipediaより、松下村塾) 品川弥二郎の追想談(おもいでばなし)に信を置くなら、松下村塾で彼が用いた教本は、『武教全書』に代表される山鹿流の兵学書にとど…

天地之間、黄金世界

「一に金、二に金、三に金。金も持たずに、達せられる志(こころざし)なぞあるものか」 政治家としての秘訣を訊かれ、鉄血宰相、オットー・フォン・ビスマルクが即座に返した答えであった。 (Wikipediaより、ビスマルク) 偉大な政治家は皆こう(・・)だ…

呪わしき凍土

飢餓ほど無惨なものはない。 飢えが募ると人間は容易く獣に回帰する。空き腹を満たすことだけが、欲求の全部と化するのだ。 朝めしはスープを、――それもキャベツと小魚だけがおなぐさみ(・・・・・)程度に浮いている、塩味のスープを飯盒の蓋に半分ばかり…

原点にして頂点

脱税、脱法、密輸、密造――ひっくるめて暗黒産業。 裏街道を邁進し、社会に毒を流し込み、他者の人生を磨り潰してでも金を掴み取らんと欲す、得てしてそういう輩ほど、上辺ばかりは美しく繕っているものである。 そういうことを、福澤諭吉が書いている。 酒屋…

六花と福翁

雪池という号がある。 福澤諭吉が用いたものだ。 「ユキイケ」でも「セッチ」でもない、この二文字で「ユキチ」と読ませる。 号と名前の発音を一致させたわけである。ちょっと他に類を見ぬ趣向といっていいだろう。如何にも彼の破天荒な性格を表徴したるもの…

敵から学べ、より深く ―長脛王は弓が好き―

そのころ、叛乱があった。 きっかけは、まあ、益体もない。 ウェールズ人にイングランドの慣習を強制しようとしたところ、彼らはほとんど焚火に向かって放り込まれたマグネシウムのようになり、金切り声で拒絶を叫び、たちまち武装を整えて蜂起の運びとなっ…

紀州伊都郡、柿の村

およそ七秒。 紀州伊都(いど)郡四郷(しごう)村の某(なにがし)が、柿の実一個を丸裸にする時間であった。 特殊な器具は用いない。ごくありふれた包丁一本のみを頼りに、十秒未満でくるくると、柿の皮を剥きあげる。 ひとえに神技といっていい。 人間の…

隠し国の月見粥

伊賀の消息を伝える書誌に「月見粥」というのがあった。 昭和四、五年あたりまで、彼の隠し国の人々が日常的に口にしていた品らしい。 なんだ、雅な名前じゃないか、囲炉裏がけした土鍋の中に鶏卵でも落とすのか、乱破どもにも、あれで存外、もののあわれを…

蛇に回向す

「…蛇よ、蛇よ、人に喰われて、人となれ。蛇よ、蛇よ、人に喰われて、人となれ…」 一ツ文句を何度も何度も繰り返す。 低く、低く、まるで地面を這わせるように押し殺した声風(こわぶり)で。 念仏に似ていた。 否、似ているどころのさわぎではない。 そのも…