穢銀杏狐月

書痴の廻廊

事は起すに易く、守るに難く、其終りを全くすること更に難し。努力あるのみ。一途に奮励努力せよ。

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2022-10-01から1ヶ月間の記事一覧

富士と山梨

霊峰富士は、ある日とつぜん出現(あらわ)れた。 まるで太閤が若いころ、墨俣で演じた奇術の如く。それはほんの一夜のうちに忽然と聳え立っていたのだと、そういう俗伝が山梨県の各所にはある。 特に郡内、都留のあたりにこそ多い。 地名の由来と、往々にし…

山中暦日あり ―富士五湖今昔物語―

山中湖には鯉がいる。 そりゃもうわんさか棲んでいる。 自慢なのは数ばかりでない。 体格もいい。二貫三貫はザラである。どいつもこいつもでっぷり肥えて、下手をすると五貫に達するやつもいる。 「そりゃちょっと話に色を着けすぎだろう」 永田秀次郎が茶々…

日本民家園探訪記

驚いた。 川崎に、押しも押されぬ首都圏に、人口百四十五万の都市に、 まさかこんな和やかな、藁ぶき屋根の家並みがあるとは。 意外千万そのものである。 ここは日本民家園、生田緑地の一角を占める「古民家の野外博物館」。北は奥州・岩手から南は鹿児島・…

日露戦争士気くらべ

ロシアの兵士は昔から、味方の負傷を喜んだ。 近場のやつが血煙あげてぶっ倒れれば、そいつを後送するために、きっと人手が割かれるからだ。ああ願わくば我こそが、光輝あふるるその任にあずかり賜らんことを。なんといっても合法的に前線を離れるチャンスで…

水のほとりの旧き神

一説に曰く、大津(おおづ)は大水(おおず)であるという。 現今でこそ熊本県菊池郡大津町として人口三万五千人、天高くして地は干され、交通四通八達し、道の駅には特産物たるサツマイモの加工品がずらりと並び、駅前にでんと鎮座するイオンモールが日々の…

つれづれ撰集 ―意識の靄を掃うため―

季節の変わり目の影響だろうか、鈍い頭痛が離れない。 ここ二・三日、意識の一部に靄がかかっているようだ。脳液が米研ぎ水にでも化(な)ったのかと疑いたくなる。わかり易く、不調であった。 思考を文章に編みなおすのが難しい。埒もないところで変に躓く…

玲瓏透徹、甲斐の湧水

人間、一生涯に一度ぐらいは自分の故郷を旅人の眼で観るべきだ。 いつも通る道沿いの、風景に過ぎなかったホテルに泊まり、ガイドブックでも片手にしつつじっくり歩いてみるがいい。 きっと新しい発見がある。そう嘯いたやつがいた。 正月、初詣を済ませるな…

山は踏みたし命は惜しし ―東西熊害物語―

不運な男がいた。 銃を携え、狩り場に進み出、首尾よく獲物を発見し、急所めがけて引き金を落とす。 何百回と繰り返してきた動作であった。 ところがこの日、山脈みたいに隆々と盛りあがった筋肉を持つ熊を向こうに回したる、この瞬間のみに限って銃は彼を裏…

濃尾地震と福澤諭吉 ―「明治」を代表する個人―

募金という行為について、もっとも納得のいく説明を聞いた。 例によって例の如く、福澤諭吉からである。 明治二十四年十月二十八日、日本が揺れた。本州のほぼ真ン中あたり、濃尾平野で地震が発生。放出されたエネルギーは、マグニチュードにして8.0、内陸地…

虎と山伏、猫科の怨み

虎は獅子より先に来た。 上野動物園の話をしている。 百獣の王の来園は二十世紀突入後――西暦一九〇二年、元号にして明治三十五年まで待たなければならなかったが、虎はそれより十五年も先駈けて、この地であくびをかいている。 (Wikipediaより、上野動物園…