穢銀杏狐月

書痴の廻廊

事は起すに易く、守るに難く、其終りを全くすること更に難し。努力あるのみ。一途に奮励努力せよ。

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2022-11-01から1ヶ月間の記事一覧

星条旗の世界 ―“Arsenal of Democracy”―

一九四〇年の『タイム』が楽しい。 読み応えの塊だ。 十二月一日号に掲載された「戦争経済第一年」は、大戦の性質――無限の需要が喚起せらるる有り様を、手に取るように伝えてくれる。 (Wikipediaより、「タイム」創刊号) 出だしからしてもう面白い。 信用…

青年犬養、老境木堂 ―「出鱈目は書の極意也」―

「この命知らずの大馬鹿者め!」 戦場から生還した教え子に、師は特大の雷を落とした。 教師の名は福澤諭吉。 生徒は犬養毅であった。 (犬養毅) 明治十年、西南の地に戦の火蓋が切られるや、新聞各社はほとんど競うようにして自慢の記者を現地に派遣、刺激…

世に混沌のあらんことを

第一次世界大戦は悲惨であった。 人類の歴史を一挙に二百五十年跳躍させる代償に、ドイツだけでも二百五十万人近い国民が、犠牲となって散華した。 いい若いものが、大勢死んだ。 その「若いもの」の死体から、まだ瑞々しい二個の睾丸(タマ)を切り取って、…

お国の大事だ、金を出せ ―債鬼・後藤象二郎―

新政府には金(カネ)がない。 草創期も草創期、成立直後の現実だった。 およそ天地の狭間に於いて、これほどみじめなことがあろうか。国家の舵を握る機関が無一文に等しいなどと、羽を毟られた鶏よりもなおひどい。まったく諷してやる気も起きないみすぼら…

ルサンチマン 対 男の世界

大阪の街の風物詩、中学連合運動会から優勝旗が消えたのは大正四年以後である。 市岡中学の一強体制、同校が頂点に君臨すること六年連続に到達したのが直接的な原因だった。 (Wikipediaより、府立市岡高等学校。市岡中を前身とする) 「常勝」という言葉ほ…

夢路紀行抄 ―クリーニング―

夢を見た。 清掃作業の夢である。 最初は確か、スケルトンの処理だった。 骨の怪物、生者を狙う死霊の一種、バラバラになったその残骸を拾い集めて、作業台の上に載せ、槌を思い切り振り下ろす。どんなに優れた考古学者でも復元不能な、粉末状に成り果てるま…

勲を立てよ若駒よ ―軍馬補充五十年―

ドイツ、百十五万五千頭。 ロシア、百二十万一千頭。 イギリス、七十六万八千頭。 フランス、九十万頭。 イタリア、三十六万六千頭。 アメリカ、二十七万頭。 以上の数字は各国が、第一次世界大戦に於いて投入したる馬匹の数だ。 合わせてざっと四百六十六万…

ドゥーチェ! ドゥーチェ! ドゥーチェ! ドゥーチェ! ―ムッソリーニ1939―

ムッソリーニは本気であった。 周囲がちょっとヒクぐらい、万国博に賭けていた。 一九三九年、サンフランシスコで開催予定のこの祭典に、ドゥーチェは己が領土たるイタリア半島が誇る美を、あらん限り注入しようと努力した。 フィレンツェ市所蔵、ボッティチ…

続・外から視た日本人 ―『モンタヌス日本誌』私的撰集―

ジャン・クラッセは日本に関する大著を編んだ。 しかしながら彼自身は、生涯日本の土を踏んだことはなかったらしい。 かつて布教に訪れたスペイン・ポルトガル両国の宣教師たち、彼らの残した膨大な年報・日誌・紀行文等を材料に、『日本西教史』を完成させ…

外から視た日本人 ―『日本西教史』私的撰集―

極東に浮かぶ島国という、地理的事情が無性に浪漫を掻き立てるのか。ヨーロッパの天地に於いて日本国とは永いこと、半ば異界めくような興味と好奇の対象だった。 需要に応える格好で、近代以前、西洋人によって編まれた日本の事情を伝える書物は数多い。 『…