穢銀杏狐月

書痴の廻廊

事は起すに易く、守るに難く、其終りを全くすること更に難し。努力あるのみ。一途に奮励努力せよ。

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夢路紀行抄 ―脱衣ロッカー大迷路―


 夢を見た。


 転換激しい夢である。


 最初は確か、工場だった。


 私は灰色がかった作業服を着てベルトコンベアの前に立ち、延々と運ばれてくるプラ容器にハンバーグを詰める作業に没頭していた。

 

 

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 このあたり、背景を探るに難はない。


 間違いなく夕飯の献立の影響だろう。セブンイレブンのレンチン惣菜。ハンバーグの品目内でも、鉄板焼より和風の方が私の好みだ。昨日もそれを、米に乗せてかっ込んだ。


 作業の合間、ふと隣に視線を移すと、テレビが点いて、天気予報をやっていた。


 それがなんと、24日のクリスマス・イヴは過去例のない高温で、28℃になるという。


 耳を疑い、目を疑い、画面に穴が開くほど見詰めてみたが、結果は変わらず。異常気象もここまで来たかと空恐ろしい気分になった。


 と、次の瞬間。


 一切の前触れなく、私の視界は熱気濛々たる銭湯のそれに塗り替えられた。

 

 

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 あんまりにもなその唐突さは、さしずめ転移とでも表現するより外にない。


 四辺あたりを見回す。


 全体的に群青を基調とした色彩だった。


 ゆらめく反射光とも相俟って、海の底から水面を仰ぎ見ているような感を覚えた。


 洗い場の附近、浴槽との間を仕切るかのような位置取りで、脱衣ロッカーが鎮座していた。


 何かの間違いでこの空間に紛れ込んでしまった同士、私はこのロッカーに、奇妙な連帯感を抱かずにはいられなかった。


 ところがいざ安心して服を預けて身体を洗ってみたところ、これはしたり、振り返るとロッカーは影も形もなくなっている。


 あの野郎裏切りやがったと、腹がたつやら心細いやら錯綜する感情のままに後を追って飛び出すと、豈図らんや、ロッカーはちゃんと本来在るべき空間――脱衣所に整然とたたずんでいた。

 

 

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 しかし、奇妙なのはその配置である。


 数字通りに並んでいない。


 7の次が938だったりと、てんでばらばらになっている。


 自分のロッカーを探し求めて歩いていると、いつしか私は途轍もないことに気がついた。


 これは迷路だ。


 何百、何千、いやいっそ何万という数の脱衣ロッカーで構成された巨大な迷路に、知らず私は足を踏み入れてしまっている。……


 そのあたりで目が覚めた。


 クリスマスにはまた、例のハンバーグでも喰おうかと、目を擦りながら考えた。

 

 

 

 

 


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