頭は冷えた。
再開しよう。
〇
冷蔵技術の未熟な時代の工夫であった。
人間にとっては重宝だろうが、伊勢海老にとってはどうだろう。狭っ苦しい箱の中、身動きもならず、鋸屑まみれで閉じ込められる心境は。「いっそ一思いに殺ってくれ」と懇願するのではないか。それに対して人間は、「やだよ、殺っちまったらお前、途端に腐り出すじゃあねえか、俺の迷惑も考えろ」と答えるわけで……。
いかん、動物愛護団体の口吻みたくなってきた。
ああ、そういえば、「海老を煮るのは動物虐待」と言い出したのは、この頃の合衆国が嚆矢だったか。
〇家畜を肥満せしむるには、亜麻仁油の
〇豚には粗製糖を日に百匁乃至二百匁
酸敗牛乳の搾り粕――。
ヨーグルトの出来損ないみたようなのを想像してみる。
何でも喰うのが家畜としての、豚の優れた点である。脱脂粉乳や砂糖で豚を肥やすのは、現代でも幅広く採られている手法だそうな。
(鹿児島の豚)
〇玉子の黄身を以て頭部を洗へば、毛髪を柔にし恰も絹の如き光沢が出ます、又
これまた今でも実践者のいる知恵だった。
もっとも卵の値が吊り上がり、一躍「高級品」の仲間入りを果たしつつある
〇俎板なり皿なりに脂のついたのを取るには糠でこすって沸湯をかけると綺麗に取れます。
〇蛤の貝柱の容易にとれる様にするには、煮るとき米を七八粒入れるがよい、奇妙によく取れます。
〇玉子の殻を蔭干にし、後薬研で粉末にして、之れに米糠を混ぜ、洗粉に用ゆる、普通の洗粉よりはずっと上等です。
米の力を引き出すことに余念がない。
流石日本人、稲作の普及を以ってして「王化」と為した民族の
〇オリーブ油、糖蜜及びランプの油煙を等分に混じたるものを塗れば、古き色の剥げたる靴も、光沢を発し、新しい靴のようになります、此法は普通靴墨として用ゆるにも最も適しております。
〇樟脳、蓮、茴香、紅花を各々二匁づゝに、アルコールをたっぷり入れ、密封してしばらくおくと、各々の精分が滲出され、エキスができます。これを、肩が凝ったやうなときに、筆につけて塗りますと、凝りも
このあたりで、まあ、ざっと、並べるべきは並べ終わった。
だがしかし、もののついでだ、せっかくなので最近やっていなかった、名歌の列挙もやらせてもらおう。
〇ちらす心かアレまあ憎い、春の夜中の仇あらし
〇すねた姿も常盤の松の、操たゞしき春のいろ
〇蚊帳を出てから又見る寝顔、かうも床しくなるものか
〇来るか来るかと待たせておいて、外へそれたか夏の雨
〇しのび足して閨の戸あけて、そっと立ちぎく虫のこゑ
〇末を思へば夜はしんしんと、こゝろ細さや秋の月
〇袖のうつり香まだ消えぬのに、かうもあひたくなるものか
〇諦めましたよどう諦めた、諦められぬと諦めた
〇ぬしは今頃さめてか寝てか、おもひ出してか忘れてか
〇末に添ふとはそりゃ知れたこと、今が逢はずに居られない
すべて都々逸。艶冶な句を多く集めた。
情緒纏綿、心に滲みる、歌い継がれるべきである。
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。
この記事がお気に召しましたなら、どうか応援クリックを。
↓ ↓ ↓