一九四〇年の『タイム』が楽しい。
読み応えの塊だ。
十二月一日号に掲載された「戦争経済第一年」は、大戦の性質――無限の需要が喚起せらるる有り様を、手に取るように伝えてくれる。
(Wikipediaより、「タイム」創刊号)
出だしからしてもう面白い。
信用と繁栄は経済の鶏と卵である。信用が繁栄を生ずるか、繁栄が信用を生ずるかといふ問題の第二の方は一九四〇年に、必ずしも繁栄を必要とせずとして解決されてしまった。一九四〇年ほど信用が少なく、産業が迅速に回転した年はないのである。
誰もが一度は聞き覚えのある哲学問題、キャッチャーな語句を並べておいて、更に「信用の少なさ」を、
オランダ、ベルギー、フランスがやられイタリアが参戦すると、アメリカは、スカンディナヴィアを含んで一九三九年度の約五億六千八百万弗の輸出市場を失った。株式市場は五月一日から六月十五日までに三十五ポイントを割り、恐怖に麻痺した。然しアメリカは史上未曾有の最大生産景気にとびこんだのである。
こう、事実と数字のつるべ打ちというような、そのくせ妙に小気味いい、明快な文で述べている。
この特徴は記事を一貫して失われない。以下、要点を抜き書こう。なお、日本語訳者は原田禎正。一九四一年、すなわち昭和十六年には、E・H・カーの『イギリス最近の外交政策』を翻訳し、沸騰へとひた走る日本社会に一石を投じた人物である。
一九四〇年の景気に洩れた工業は殆どなかった。然し最も影響を蒙ったのは航空機であった。この業者は、年初手持六億七千五百万弗の註文と六万人の職工を以って仕事を始めたが、年末には手持ち註文三十五億弗、就業人員十六万四千人となった。
久方ぶりに「The Inflation Calculator」の助けを借りて調べると、一九四〇年の一ドルは二〇二一年の二十ドルに当たるらしい。
すると三十五億ドルは、ざっと七百億ドル以上。現代の貨幣価値に換算しておよそ八兆円前後。
溜め息が出る。なんともはやとしか言いようがない。
十一月までにアメリカの鉄道は五万四千輌を廃車にし、同数の新車輌を就役せしめた。
誤訳を疑いたくなるが、たぶん精確なのだろう。
アメリカ車輌鋳物会社は長い間空であった車庫の一部を、戦車註文二千百五十万弗で満たし、更にこれに九千万弗の弾丸、装甲を加へて殆んど例になってゐた赤字を黒字にした。アメリカ汽関会社は、陸軍の註文を三千八百万弗とり、優先株に対し一株五弗の配当をした。鉄道に忠実だったブルマン会社すら、何か武器事業を行った。
ルーズベルトが得意げに「民主主義の兵器廠」を名乗るわけだ。
スターク提督の両洋艦隊のため、海軍造船廠は十二日毎に軍艦を一隻づつ浸水させた。
おっ、週刊空母かな?
少なくともその片鱗は見えた気がする。
(空母レキシントン)
年末海運委員会は総噸数九十三万二千噸の商船を建造中で、一週一隻の割で進水させた。フィラデルフィアの古いクランプ造船所も海軍の註文一億六百三十八万弗で再開され、八つの海軍造船廠、二十三の私立造船所が全スピードで就工した。
先週はイギリスがアメリカに対し六十隻の一万噸級貨物船を一億弗で註文し、その海上運輸の損失を補はうとしてゐる。この未曾有の商船註文のため、トッド造船所はカリフォルニアとメインに各々一つの新造船所の建設を開始した。
本気になった米帝様は凄まじい。
まさに現代のリヴァイアサンだ。
(フィラデルフィア海軍工廠。アメリカ海軍最初の造船所として有名)
――姑息な軍備は危険この上もない。軍備はどこまでも徹底的でなければならぬ。
これまたフランクリン・ルーズベルトの発言である。
あるいはいっそ、箴言と呼んでもいいかもしれない。
第三十二代合衆国大統領は有言実行な男であった。それだけはどうも疑いがない。
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