穢銀杏狐月

書痴の廻廊

事は起すに易く、守るに難く、其終りを全くすること更に難し。努力あるのみ。一途に奮励努力せよ。

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大和民族の精神解剖 ―占領軍の立場から―


 日本国憲法は前文からして間違っている。「平和を愛する諸国民の公正と信義を信頼して」? 寝言をほざくな、そんなの・・・・が、日本の周囲まわりのいったい何処に存在してやがるのか。


 支那南北朝鮮に、それからもちろんロシアも含め。どいつもこいつも隙あらば、こちらの肉をくらわんとする餓虎ぞろいではあるまいか。

 

 

 


 いや、彼らとて、あるいは平和を愛するだろう。だがそれ以上に自分の財布が満ちること、他者を踏みつけ、苦しませ、見下すことで味わえる優越感の方をこそ、より濃厚に愛すのだ。


 そんな相手に「公正」を期待するなどと、アナコンダと添い寝するより愚かしい、信じて背中を預ければ、えたり・・・とばかりに短刀を突き立てられるに決まってる、到底正気の沙汰でない。つまるところ憲法は、ありもしない状況を「ある」と捏造して建てた、空中楼閣そのものだ――と、こんなところが、まあ、ざっと、改憲志向の保守派論客の常套句であるだろう。


 内容自体に関する批評をここでしようとは思わない。それはあまりに手垢のついた、つききった・・・・・、なんの新鮮味も伴わぬ、退屈な作業であるからだ。


 面白いのはこの論が、よほど年季の入ったもの、遅くとも昭和二十八年、西暦にして一九五三年の段階で、既に盛んに叫ばれていた点こそだ。

 

 

 


 更に輪をかけて愉快な事実。


 それを唱道してまわったクチは、日本人のみに限らない。


 占領者である米国人の口唇も、はやばや「押しつけ憲法」の欠陥性を曝け出すため鳴っている。

 


その憲法の欠陥はその字句からして明らかだった。この憲法は、日本のことについてはほとんど表面的な知識ぐらいしか持っていない一国の人たちによって起草されたものである。彼らはその文書の中で、その起草された相手の国民だとか四囲の事情だとか、ないしは嗜好の問題などには全く譲歩しなかった。――こんな具合に。

 

 

 日本国憲法なんてのは、占領軍の海軍中佐が十日足らずの突貫作業で場当たり的に編みあげた、至って粗末な代物である。


 渡部昇一高山正之櫻井よしこ、前野徹あたりの著作で何十回と目にしたところの論調だ。


 しかしこれを書いたのは疑いもなく星条旗の国の民、フランク・ギブニーなのである。


 その前提を頭に入れて眺め直してみた場合、流石に驚きを禁じ得ぬ。

 

 

(フランク・ギブニー)

 


 文中指摘されている、「四囲の事情」というものは、具体的にはどんなの・・・・か。


 明快な答えをギブニーは掲げておいてくれている。「日本は敵の要害の側面にあるという位置からみて、軍事的にその砦をまもることが英国よりもむずかしくさえある。日本の水域に直接国境を接する、ほとんどすべての国は敵意をもっている。ある場合には援助の手が、いかにも遠くにあるように思えるだろう」。――これまた「保守派論客の常套句」、本稿冒頭部分との相似形をなすものだ。


 日本人の国民性、「嗜好の問題」に関しても、ちょっと言葉を借りるとしよう。


「日本人は落ち着きのない、せっかちな、そして気まぐれな変りやすい国民である。彼らの住むところは人口のあふれた、変転常ない美しい、しかも脆弱な島である。大地は彼等の足もとで揺らぎ、山は煙を吐く。波はそそり立つ岸に砕け散り、絶えまなく風は曲りくねった樹木から葉をもぎとる。日本人の生活は不安定な自然にゆだねられ、また、自然の事物の小ささに押えつけられている」――新年早々、一月一日いちがついっぴの出だしから、震度七の揺れを喰らった後だけに、このあたりの記述には大いに共感させられる――「気候と地勢のために、日本人はほとんど落ち着けないのだ。他の諸国とのあいだには親近感もなにもない。日本人の力は彼らの共同体の中を彼らをして一つにかり立てる恐怖と誇りの衝動の中にある」


 フランク・ギブニーは日本人の民族性を、かなり深く呑み込んでいる。


 戦時中、海兵として太平洋戦線で、捕虜を尋問していただけのことはある。相手を理解しらねば喋らせられぬ。どうもそういう印象だ。

 

 

 

 

 終わりに一言しておくと、今回引用した文章は悉く昭和二十八年刊の『日本の五人の紳士』より抜かせてもらったものである。


 訳者が石川欣一であるのに惹かれて取った本だが、ことのほか収穫が多かった。


 これで五百円は安い。元は十分、とれたと思う。

 

 

 

 

 


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