夢を見た。
神の御業の夢である。
最初はハンドクリームだった。
真珠を融かしたかの如く鮮やかに白いその軟膏を一掬いして、きゅっと
いつまでも尽きる気配がない。
いい気分だった。
まるでキリストではないか、マタイによる福音書第十四章、五つのパンと二匹の魚で五千人を満たした奇蹟――。
今にして顧みれば的外れもいいところだが、夢の中では思考能力が一部麻痺する。床に広がる純白を、なんの自省もすることなしにただ恍惚として眺め続けているだけが、わが偽りなき姿であった。
そこから先、どういう経路をたどったものか――。
エレベーターに乗ろうとしたら、「人の形に近い犬」とか、とんでもないラベルの貼られた茶色い瓶を渡されるという場面もあった。
中身は何か、油っぽい液体で満たされている。
その名の通り、人間に酷似した姿の犬を、妙ちくりんな技術によって一匹まるまる液状化したものらしい。
どうも私は何かしらのワクチン接種に来ていたようだ。まずこの飲み薬を摂取して、肉体がどう反応するか確かめる。それも三十分ほど時間をかけてじっくりと。ご念の入ったその手続きを踏まない限り、「本命」は打ってもらえぬ決まりだ。一緒に乗り合わせた人が、懇切丁寧に教えてくれた。
そいつは大した逡巡もせず一気にぐいっとやってたが、私は流石に心が乱れ、石像にでも化したが如く蓋を凝視しているうちに、目覚めの時刻と相成った。
吉夢では確実にないのだが、悪夢と断じるのも違う。
名状し難い後味が、その後しばらく尾を引いた。
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