穢銀杏狐月

書痴の廻廊

事は起すに易く、守るに難く、其終りを全くすること更に難し。努力あるのみ。一途に奮励努力せよ。

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銃器と大和魂と


 伝統とは、ときに信頼なのだろう。


 フランスがスエズ運河の開削に、オランダ人らを大挙雇用した如く。

 

 村田銃の量産作業に際会し、明治政府もひとつ凝った手を打った。


 玄人衆を引き入れたのだ。


 彼らは西南から採った。種子島の鉄砲鍛冶に声をかけ、遥々帝都へ呼び集め、実務に当たらしめたのである。

 

 

MurataTR

Wikipediaより、村田銃)

 


 日本歴史に於いて初めて、国産銃器の製造を成就せしめた工人集団の末裔を、今度、これまた、またしても、日本史上初となる国産ライフルの製造に携わらせたワケだった。


 実に妙味な配置であろう。


 心憎い、とすら言える。


 この方針はただの絵合わせ、ゲン担ぎ、判じ物にとどまらず、目に見えて良果を示したそうだ。当時の新聞、『朝野』に曰く、

 


「往昔葡萄牙ポルトガル人が小銃を齎して鹿児島県下種子島渡航せしより、島人は右の銃を模造して種子島銃と称し内地に売り広め、近年に至るまで益々盛んに行はれたるも竟に廃物となり、該島にある旧家の鍛冶職等は皆手を束ねて嘆息し居たる処、」――ゲベールやらスナイドルやら、はたまたミニエー銃やらと、輸入製品ばかりチヤホヤされてきた、幕末以降を想うべきだ。そりゃあ職人も暇をする――「今般村田少佐が新発明の元込銃を三十万挺製造せらるゝに付、該島にて老練の鍛冶職十余人を召集し製造に従事せしめられしに、其工業著しきを以て更に島中より多人数召募に成ると申す」云々と。

 


 ちょっとした歴史再現だった。


 さても快い景況である。

 

 

 


「我等は祖先に存するあらゆる心意的、道徳的特性を、悉くその子孫に於て見出すことを期待する」。エマーソンは正しい。イメージの瓦解に遭うのは辛い。「栄えある歴史」を背負った者には、常にそれに相応しい内実を備えていて欲しい。ゆめ看板倒れになってくれるな。勝手な期待と言われようとも、この願望は抑止とめられぬ。生まれ持った性癖に、人は所詮抗えんのだ。


 ……ちょっと脱線してしまったか?


 まあ、要するに。何が言いたいかというと。


 こんな意味でも日本人の魂が充填された武器だったのだ、村田銃と云うヤツは――。

 

 

 

 

 


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