穢銀杏狐月

書痴の廻廊

事は起すに易く、守るに難く、其終りを全くすること更に難し。努力あるのみ。一途に奮励努力せよ。

※当ブログの記事には広告・プロモーションが含まれます

日本の覚悟 ─桃介的世界観─


 福澤さんちの桃介くんがおよそ三十年ぶりにニューヨークの地を踏んだ。


 かつては留学生として、そして今度は電力会社の長として。


 学業からビジネスへ、装い、目的、一切を蓋し華麗に改めて、威風堂々、乗り込んだ。

 

 

Fukuzawa Momosuke young

Wikipediaより、若き日の福澤桃介)

 


 摩天楼の立ち並ぶ彼の地に於いて外債交渉にいそしむ傍ら、ふとした余暇を利用して、学生時代の友人と会ったりなぞもしたらしい。


 そこでの会話が面白い。なんでも曰く、

 


「…三十年前の旧友が『ニューヨークは非常に大変化したらう』と云ふから私は『何が変化だ恐らく女の化粧が変った位のことで高い家は前から在ったし殆ど変化はない、変化のあったのは日本だ、今から三十何年前と云ふと低い草屋根の家が多かった、夫が丸の内のやうになった日本こそ本当に大変化してゐる』と云ふと如何にもさうだと感心して握手した、こちらがオープンに出れば向ふも喜んでオープンに出る」

 


 反骨精神全開の、退かぬ媚びぬを体現でもするかの如き、こんな景色が展開されたそうだった。

 

 

東京商工会議所

 


 阿諛追従の効能を、あれほどしっかり認めて称えておきながら、自分は決して他人にゴマを擦ろうとしない。


 幇間野郎たいこもちを軽蔑しない、短絡的に彼らのことを下に視る世間の気風が嫌いなだけで、自分もそれらの仲間入りをする心算など、桃介にはサラサラ無かったようである。


 それか若しくは、

 


「何方から見ても日本は西洋の国民乃至文明と縁の遠い国である。其関係はアメリカ人とインド人よりももっと薄いものである。斯くして東洋諸国亦多く語るに足らぬとすれば、真実日本を愛し、日本に同情する国は世界に一つもない、日本は日本で日本を愛するより外はない。換言すれば日本は世界皆敵の国である

 


 こんな素敵な認識を、自著の中にて表明していた桃介だ。


 岡本一平同様に、「外国に居ると大和魂がつまらぬことでもついムキになる」、そういう性質タチでもあったのだろう。

 

 

 

 

 


ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。
この記事がお気に召しましたなら、どうか応援クリックを。
 ↓ ↓ ↓

にほんブログ村 本ブログ 古本・古書へ