人種差別主義者の著作も、たまに開くと面白い。
たとえばマディソン・グラントはどうだ。
排日移民法の公然たる立役者、ヒトラーにとっての「聖書」を世に著した、この人物の箴言にひとたび耳を傾けよ。
「同族間の内訌は御免だ、唯だ危険な外国人種と戦はなくてはならぬ。若し吾人にして、外国人を放任して、我が国に移住させる時は、吾人は自国から駆逐される他ない」
そこにはきっと、否、確実に、ある種現代輿論との相似形が発見されることだろう。
「今日吾が米国が、外人移民難に累せらるゝのは、詰り理想家や博愛主義者の空想に指導された結果である。之に加へて、我が工業家輩は、低廉な労働者を其工場に使用しやうといふ要求が之を助長した。
今や吾人は、経世家を要する事切にして、徹底的な歴史上の智識を要すること、一層切なるものがある」
マディソンの希望は達成される。
結局当時のアメリカは、彼の弁舌の指し示すまま、白人至上主義の強化へまっしぐらに進んでいった。誰もが知る通りのことだ。
目障りな有色人種の流入が遮断される有り様を網膜にしっかり焼き付けて、彼はさだめし満悦の心地、鼻高々であったろう。
排斥された側の人々、とりわけ日本国民の悲憤慷慨は非常なもので、それがために死を選ぶ、「抗議の自殺」を敢えてしでかす手合いまで出現するほどの騒ぎとなったが、彼にとっては些細なことだ。蟲が炎に飛び込んで死んだほどの感慨も湧かなかったに違いない。

「有色人種が武器を執って白人を圧倒する事よりも彼らが移民に依て『一層持続的な勝利』を占むる事の方が余程恐るべき事である、何んとなれば有色人が移民を企てゝ以て、今日白人の国となって居る土地を有色人種のものとする事が、白人にとっては償ひがたい損失となるからである」
書き手を変えて、こちらはロスロップ・ストッダード。
KKKの一員にして、その卓越した学識を駆使し、剥き出しの差別感情にもっともらしい理屈を添えて、大義名分の外装を纏わせるのに功ありき、団体の理論的支柱、曰くつきの歴史家である。
「白人は八十年にして二倍に殖へるが、黄色人と褐色人は六十年、黒人は四十年で二倍になる。白人は此の如く出産率が遅緩であるが、今後一層遅緩になるであらう。已に仏国が人口停滞の現状である」
またフランスがディスられている。
こと出生率関連で、当時に於ける悪い見本の定番という印象だ。
「フランスといふ言葉は普通のフランス人にとっては神やキリストよりも遥により多くを意味する」──斯く咆哮せしフィリップ・ギブスが、あまりに哀しい。

「回教徒が他宗教者を自宗教に改宗させる力は異常なもので、且つ其の信徒把持力は、一層強大である、古今の歴史を通じて一度帰依した宗教を変へない事、回教徒の如く確実なものはない、回教をスペインのムーア同様に剿滅する事が出来るとするも、其の個人としての信仰を奪ふ事は出来ない、然れば回教徒の此の執着力と、其の信徒把持力とに依り、一たび地歩を作る時は、彼等は決して之を失はない、故に吾人は回教徒が今日前進しつゝある土地の将来を考慮するに際し、此点を能く記憶しなければならぬ」
ストッダードはイスラム教を極度に危険視していた模様。
そしてその危惧は、おそらく正しい。正しかったということが、その後百年の歴史を通じて嫌というほど証明された。
なるほど確かに磨き抜かれた時勢眼の持ち主ではあったのだろう。
視角次第でアメリカ・ファーストの先唱者とも看做し得る、そうした男たちであった。
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