穢銀杏狐月

書痴の廻廊

事は起すに易く、守るに難く、其終りを全くすること更に難し。努力あるのみ。一途に奮励努力せよ。

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痩せる首府


(首都ですら、これか)


 オーストリアはウィーンの中央市場にたたずんで、氏原佐蔵は慄然とした。


 モノが少ない。

 

 閑散としている。


 二百二十万を超す都市人口の支えにしてはあまりに寂寞、積まれ運ばれ並べられ、取り引きされる食糧がどうにも僅少すぎるのだ。

 

 

 


 時は恰も第一次世界大戦終結直後。血も涙もない講和条約──少なくとも彼らの主観に基けば、そういうことになっている──を飲まされて、国民が半ば自暴自棄の心境に到りつつあるタイミング。


(敗戦間もない国の姿が、笑顔に満たされ浮かれ調子で活気づいてる方こそおかしい、悲愴はむしろ理の必然ではあるのだが──)


 それにしたってこの時期のオーストリアは酷すぎた。


 ことによっては戦争中の方がまだしも物資の絶対流通量は多かったんじゃあないのかと、本気で疑うレベルの欠乏。これはいったいどうしたワケかと市の当局者をつかまえて問いただした氏原は、以下の通りの知見を結果得たという。

 


「ウィーン市に食糧の集まらない根本理由は墺国の財政難と之に伴ふ為替相場の下落に在るのは勿論であったが、之に次ぐ主ある理由は市民の生活難を少しでも緩和せしめんが為に食糧品の価格騰貴を極端に抑圧した、其結果は中央市場で取引される之等の値段を抑へることとなり、かくては地方から輸送しようとしても生産者側よりせば、到底収支相償はないこととなるので、生産地では損してまでも送る必要はないと荷物を出渋り、遂に地方よりの入荷は減ずるに至り益々弥が上にも食糧品の欠乏を訴ふるものである」

 

 

 要するに、国難と失政のダブルパンチを食った挙句のグロッキー。


 これはもう、為政者は割と真剣に、暗殺リスクに備えなければならぬ状況ではあるまいか。

 

 刺客の側からしてみても、暗殺計画策定のうち、何はともあれ斬奸状の文面に悩まずには済むだろう。

 

 実にすらすらペン先を走らせられるに違いない。……

 

 

(『DEATH STRANDING』より)

 


 一連の事象から帰納して、

 


「都市食糧政策に携はるものの心すべきは市民に媚びんが為に物価を表面的に紙上に引下げて見ても物資が欠乏しては何等得る所はないことである。物資の集中こそ第一義であり、実物が得られる範囲に於て価格の調節が行はれなければならない」

 


 との教訓を、氏原佐蔵、内務省衛生局お雇いの技師であったこの彼は、導き出したるものだった。

 

 

 

 

 


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