蓮池鍋島家十一代目の当主様、鍋島直和その人は、また随分な愛犬家として世間に聞こえた方であり。特に、とりわけ、お気に召された犬種というのが、「秋田犬」であったとか。
(Wikipediaより、秋田犬)
九州肥前蓮池藩を治めた
もっともそこはお殿様。飼うといっても直々に日々の散歩をこなしたり、シモの始末をするだのと、まめまめしい世話はせぬ。そういう煩瑣なことどもは、家人が代わってこれを全うすることが、当時のいわば常道である。
この家人らが、しかしある時、悲鳴をあげた。
大型犬の世話というのは、やはり相当、負担のかかる仕事のようだ。これ以上は到底任に堪えられませぬと雁首揃えて罷り出で、「秋田犬飼育中止願」なる上申の儀に及んだ際の情景こそ、見ものであった。
なんというか、やることなすこと、半世紀は古いのだ。
江戸時代の殿中の空気、そのままである。

(『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』より)
現にこのとき、家人どもが面上に貼りつかせたる緊張たるや、尋常一様のモノでなく。主君の返答次第では、即刻その場で短刀を土手っ腹に埋めかねぬ──切腹を以って抗議の意を表しかねない──、必死の相があからさまに浮いていた。
直和は、鈍感ではなかった。
家臣どもの迫力を過不足なく察知して、やむなく「願」を容れている。
引き取り先にどうにかこうにかアテをつけ、秋田犬らが去った後。静かになった屋敷には、しかしまたぞろ新たな犬が──小型の洋犬二、三匹がやって来て、その賑やかな吼え声で、主人の無聊を慰めたということである。

コロンブスが新大陸を発見した時も彼は既に家畜化された犬を此処に見出してゐる。斯様に家犬が広い分布を有ってゐる点からばかりでなく、その形態が千変万化を極めてゐる点から見ても、犬の家畜としての年齢が非常に古いものである事がわかる。
──加茂儀一
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