細部にまで粋を凝らしたその建築は荘厳以外のなにものでもなく、「世界最美のキャンパス」として讃えられるも納得であり。また正門には以下の警句が彫り刻まれて、学生たちの襟と背筋を正させるのに大いに貢献したそうだ。
“Pass through this gateway and seek
the light of truth,
the way of honor,
the will to work for men.”
「この門を通り而して求めよ。真理の光と、名誉への道と、而して世のために働く意思を」――。
なんともはや、格調高い。
あるいは本校の創立者、トーマス・ジェファーソンその人の言葉であるかもしれない。建国の父たる彼ならば、これを語るに少しの不足もないだろう。
翻訳したのは時事新報の武藤山治。
「人生の宝探しに極めて有意義なる訓言」として、件のコラム『思ふまゝ』に掲載されたものだった。
いったい武藤という人は、教育分野に関しても興味を持つこと
「吾々の経営する新聞紙は、一面営利事業であって自ら収支の計算を立てゝ行かねばならぬ。そして他の一面に於ては社会の指導機関であり、教育機関である役目を果さねばならぬ」との宣言通り、『思ふまゝ』には結構な率でこの種の話題が含まれる。
就中、私の琴線をゆさぶったのは、やはり米国、ノースカロライナ州アベリー郡の一角に立つリーズ・マクレイ大学についての記述であった。
(Wikipediaより、ノースカロライナ州シュガーマウンテンの景色)
なんでもこの大学、他の諸校と引き比べ、学費が驚くほど安い。
具体的には一年あたり187ドルで済む。当時の187ドルは、現代の貨幣価値に換算してざっと3800ドル。日本円に直したならば、およそ四十二万円。
アメリカでは今日ですら、州立大学に年10000ドル、私立大に至っては年35000ドルを要すると云う。そんな中、3800ドルという、この思い切った数字はどうだ。目を見張るには十分ではなかろうか。
破格の理由は、夏季に於いて見出せた。
なんとこのリーズ・マクレイ、秋冬春は大学なれど、夏にはその経営を一変させて断然ホテルと化すという。しかもその「化けぶり」ときたらどうであろう、看板さえも「ピクナル・ホテル」と掲げなおしてのけるのだからたまらない。到底生半の域では済まず、徹底的と呼ぶに足る。
で、そこで働く従業員は――案の定と言うべきか――、取次・コック・清掃員に至るまで、その悉くが学生という寸法だ。これがどうもアメリカ人の気性に合って、少なくとも武藤山治が記事にした1933年ごろまでは割と繁盛していたらしい。
「これは誠に面白い思付である。今日は昔と違って社会の組織は複雑になって、到底普通の学生が学窓から覗いて見て居るのではよく分からない。かう云ふ世の中にあっては学生をして在学中に、社会の実際に当たらしむる教育方法は実に時代に適応せるものである」
と、
ノースカロライナには、2021年現在でも同名の大学が存在している。
なんでも近ごろ自転車科を追加して、サイクリングで学位をとれるアメリカ唯一の学校として名を馳せたとか。
独自路線を突っ走るのは相変わらずであるようだ。
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