嗜好用大麻の合法化された合衆国の各州で、交通事故の発生件数が上昇傾向にあるらしい。
この事態を重く見た当局は、飲酒運転ならぬ「ハイ運転」の予防に乗り出し、被検者の呼気にどれどほどの大麻成分が含まれているかを検査する機器・「カンナビス・ブリーザライザー」の導入に向けて動いたりと、いまさら対策に大忙しだ。
こんな展開になることは、前々から分かり切っていたであろうに。
なにしろ遡ること七十年前、ウィリアム・バロウズが既に警告してくれている。
作家にして重度の麻薬中毒者でもあったバロウズは、その自伝とも言うべき処女作品・『ジャンキー』に於いて斯く述べた。
マリファナについて一つだけ注意しておくことがある。マリファナの影響下にある人間は車の運転はまったく適していない。マリファナは時間の感覚をかき乱し、その結果として空間的な関係の感覚まで狂わせる。いつだったかニューオーリンズで道路の片側に車を寄せたきり、マリファナの陶酔がさめるまで待たなければならなかったことがある。すべての目標物がどのくらい離れているのか、交差点でいつ曲がり、いつブレーキを踏むのか、ことごとくわからなかったのだ。(56~57頁)
実際に使った者の証言である。
一定の信頼は置いてよかろう。
おまけになんとも、名文だ。読者をして真に
いったいこのウィリアム・バロウズというヤク中は愉快な男で、彼のドラッグ・レビューを眺めるだけでも本書を買った甲斐がある。モルヒネ、コカイン、ヘロインと、有名どころは勿論のこと、緑色の胆汁を口から吐くまで酒を飲んだり、ペイヨーテなる幻覚サボテンを賞味してぶっとんだあまり視界に映るなにもかもがサボテンに見えるようになったりと、とにかく話題に事欠かないのだ。
挙句の果てにはウィリアム・テルになりきって、妻の頭にグラスを乗せ、華麗にそれを撃ち抜こうとしたところ、狙いが逸れて妻の肉体を撃ち抜いてしまった――もちろん彼女は死亡した――なんてエピソードまで持っている。これだけやりたい放題やったというのに彼自身はどういうわけか長生し、1997年、83歳で漸く往生したというから人間というのはわからない。果たしてこのいきものは、丈夫なのか脆いのか。
バロウズ以外にもマリファナによる時間感覚への悪影響について語っている者はいる。
彩図社から2004年に出版された、『実録ドラッグリポート』からの抜粋だ。
マリファナ好きのキムラはいい奴だし、『ガリガリ君』のように勘繰ることもないが、非常にみんなを困らせている。
待ち合わせをしても、ほとんどの場合、遅刻してくるのだ。それも十分や二十分という遅刻ではなく、平気で一時間遅れてきたりする。その上、本人は明らかに反省しておらず、ぼーっとした表情をして「電車に遅れちゃって」と言うのだ。
どれだけ電車に遅れれば一時間も遅刻するんだと突っ込んでも、ごめんごめんと口先で謝るばかり。人を待たせることを悪いと思っていない。
マリファナにハマる前から、キムラのことを知っているが、以前はそんな性格の持ち主ではなかった。待ち合わせに遅れることもなかった。それがマリファナの煙に巻かれているうちに、責任感が消え、人を待たせるのが平気になってしまった。(42~43頁)
将来的にこの植物がわが国でどんな地位を獲得するか知らないが、くれぐれも時間をかけて、慎重に議論を進めて欲しい。
一度解禁したものを再び取り締まろうとしても、それはひどく困難で、なにより徒労なのだから。
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