人目を忍んでコソコソとやるスリルであり、面白味。およそ金に困らない上流階級の御婦人が万引きに手を染めるのも、この快楽に中毒してのことだろう。
(『Ghostwire: Tokyo』より)
破滅を心底恐れつつ、しかし同時にその
軍人の如き特殊社会の中にすら、類型は求め得てしまう。
同所の海軍工廠で多年に亙り一部将士が資材と人手を勝手に使い、ある種の秘密工場を運営していた不祥事が明るみに出た所為である。
「秘密工場」の響きから、ついつい何か凄まじい、戦局を一変せしむるような超兵器の開発に精を出しておったとか、そういう素敵な「
彼らがやっていたことは「構内に秘密工場を設け職工の一部を恣に使用して官品の木材及び金属を用ひ家具装身具などを製造し自己の家庭に使用し又は他に売却せること数年に及べる」ものという、弁護の余地なし、同情に値する点も一切皆無な、とどのつまりは横領だ。
とりわけ大物だったのは、探照灯用反射鏡を加工して作り上げた鏡台である。「厚さ六分もある鏡を用ひあり其裏には銀メッキを施すなど暇と金とにあかせて」製作した代物で、完成には七十余日を費やしたとか。
搬出経路も尋常ではない。「軍艦千代田の艦載水雷艇に搭載し工場外に持出して河原石に陸揚げ」と、何から何まで汚職腐敗の極みであった。
赤軍兵士が粛清のリスクを負いながら、それでも尚且つ密造酒の醸造に躍起になっていたことは蓋し有名な逸話だが、我らが大日本帝国も、どうして彼らを一方的に嘲笑ってはいられない。
秘密の味はさぞや甘美だったろう。
なお、今回の引用は、例外なしに『神戸又新日報』紙、大正九年三月七日の記事からであると云うことを、最後に付け加えておく。
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