虫歯の痛みを鎮静させるためとはいえど、蛭を口に含むなど、考えただけでおぞましい。
到底無理だ。ヒポクラテスの勧めでも、鄭重に謝絶するレベル。万が一、喉の奥へと進まれて、食道にでも貼り付かれたらなんとする。不安で不安で、神経衰弱待ったなしではあるまいか。
(Wikipediaより、ヤマビル)
論外もいいとこに思えるが、しかしそういう療法が、嘗て本当に
「痛む歯の歯茎に、蛭をつけると、歯痛が止まる。膿を持ったのでも治る。蛭のつけ方は、巻煙草の吸口のやうに丸めた紙の中に、蛭を一匹入れて歯茎にぴったりと当てがって吸ひつかせます。軽いときは二匹くらゐが適当、一匹づゝ二度につけます。三匹のときは三度に。
歯のために頬や顎の下が腫れて、痛みの激しいときには七八匹の蛭を腫れたところへ、吸ひふくべでつけて、悪い血を吸ひとらせ、その後で患部に硼酸水の冷罨法を行ふと治ります」
肩こりをほぐす目的で蛭を背面に乗せてゆくのは蓋しポピュラーな手法だし、さして嫌悪も湧かないが、それはあくまで「皮膚の上に」であるからだ。
粘膜に接触させるとなると、まるで話は別である。別であるということを、今回このたび、自己の内部に見出した。
(Wikipediaより、成人男性の歯)
『家庭療法全集』に、――より解像度を上げるなら、本書の執筆者のひとり、飯塚喜四郎歯科博士の調査に曰く、口腔内にただ一本の虫歯も持たぬ日本人は、百人中たった五人の極低率であったということだった。
九十五人は最低一本、歯を微生物に侵されていた統計である。
これはおそるべきことだ。
飯塚博士も、
「昨今は『健康第一』といふ言葉が非常に高唱されてゐるやうですが、健康第一といふことを真に理解し、これを実行せんとするものは先づ第一に、消化器系統の関門をなす、歯の健康に着眼しなければなりませぬ」
と、憮然顔で書いている。
腸チフスや赤痢とて、折に触れては再流行し身近な脅威で居続ける。
ちょっと油断しようものなら着物の縫い目にノミ・シラミが
そういう昭和初期から観ると、現代日本はなんとまあ、ほとんど無菌室めいた、高水準な衛生管理システムの確立された社会状態ではないか。
もはや虫歯対策に、蛭をほおばる要もなし。
進歩の
(身延駅近くにて撮影)
ちなみに筆者は生まれてこの方、虫歯をわずらったことがない。
母の躾の賜物だと感謝している。
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。
この記事がお気に召しましたなら、どうか応援クリックを。
↓ ↓ ↓