穢銀杏狐月

書痴の廻廊

事は起すに易く、守るに難く、其終りを全くすること更に難し。努力あるのみ。一途に奮励努力せよ。

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2022-07-01から1ヶ月間の記事一覧

裸の交渉 ―青木建設創業夜話―

外交にせよ、商談にせよ。まずふっかけてかかるのが交渉術の基本とされる。 過大な条件を突き付けて、そこから徐々に妥協点を探ってゆくのが即ち腕の見せ所であるのだ、と。 近年のサブカル界隈にもまま見られる描写であった。 有名どころでは『スターダスト…

狼の価値 ―一匹あたり二十万円―

「狼一匹を駆除するごとに、三円の報奨金を約束する」――。 そんな布告を北海道開拓使が出したのは、明治十年のことだった。 (Wikipediaより、開拓使札幌本庁舎) この当時、一円の価値は極めて重い。小学校の教員の初任給が九円前後の頃である。たった三匹…

続・ドイツの地金 ―何度でも―

ナチ党による独裁が確立して以後のこと。 ドイツ国内に張り巡らされた鉄道網。その上を走る汽車のひとつに、日本人の姿があった。 べつに政府関係者でも、大企業の重役でもない。ただの単なる旅行客、それも気ままな一人旅である。 彼の傍には地元民らしき少…

屯田兵の記憶 ―会津藩士・安孫子倫彦―

明治八年、最初の屯田兵たちが北海道の地を踏んだ。 青森県より旧会津藩士四十九戸、宮城県より仙台士族九十三戸、山形県より庄内士族八戸、その他松前士族等々、合計百九十八戸に及ぶ人間集団が青森港から小樽の港に渡ったのである。 その中に、安孫子倫彦…

北海道のユニコーン ―幕末幻想怪奇譚―

試される大地だけではないか、わが日本国で、一角獣が棲息するとまことしやかに語り継がれてきた土地は――。 文献上に確認できる。 萬延元年、西暦にして1860年、函館から江戸へと飛んだ一通の書。栗本鋤雲が旧知に宛てて書き送った手紙の中に、該当する部位…

男にとっての最大鬼門

フレデリック・ショパンは恋人を捨てた。 「捨てた」としか表現しようのないほどに、それは唐突かつ一方的な別れであった。 (Wikipediaより、フレデリック・ショパン) 原因は、益体もない。 あるささやかな集まりで、自分に先んじ他の男に椅子を勧めた。 …

ドイツの地金 ―敗れても―

一九一九年、敗戦直後のドイツに於いて、二人の男が自伝を世に著した。 一人はアルフレート・フォン・ティルピッツ。 もう一人はパウル・フォン・ヒンデンブルク。 どちらも名うての軍人であり、多分の英雄的側面をもつ。 ティルピッツに関しては、以前の記…

紳士たちの戦争見物

日清戦争の期間中、現地に展開した皇軍をもっとも困惑させたのは、清国兵にあらずして、イギリスの挙動こそだった。 そういう記事が『時事新報』に載っている。明治二十八年三月二十四日の上だ。曰く、「我軍が敵地を占領するの場合に、彼(イギリス)の軍艦…

酪農王国への歩み

北海道へ行くと、停車場でも旅館でも、あらゆる施設が隙あらば牛乳を飲ませようとする――。 毎日新聞に籍を置く、とある記者の弁である。 昭和三年、取材旅行を総括して、だ。 (旭川近郊、平手牧場) 試される大地に酪農王国を築き上げんと、たゆまぬ努力、…

公私の巧みな使い分け ―国会記者・岡本一平―

岡本一平は政治漫画もよく描いた。 だから国会の裏も表も、実に詳しく知っている。 記者控室の常連だったといっていい。蝶を待つ蜘蛛の心境で、あの立法府の隅々に感覚の網を張っていたのだ。 (Wikipediaより、国会議事堂) ある日、こんな景色に出くわした…

未来は過去の瓦礫の上に ―青函連絡船小話―

小麦に限らず、艀荷役はよく積荷を落っことす。 何処かの誰かが到着を今か今かと待ちわびている大事な品を、些細なミスからついつい海の藻屑に変える。 大正十一年度には、青函航路――青森駅と函館駅との間を結ぶ、片道ざっと113㎞のこれ一本をとってさえ、実…