穢銀杏狐月

書痴の廻廊

事は起すに易く、守るに難く、其終りを全くすること更に難し。努力あるのみ。一途に奮励努力せよ。

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2023-01-01から1ヶ月間の記事一覧

山本さんちのゴンべどん ―ある薩人の影を追う―

「上方で戦(いくさ)の形勢じゃ」 兵力が要る、我はと思う者やある、居れば疾く疾く名乗り出よ――。 慶応三年、薩摩にて、こんな「お達し」のあった際。加治屋町の貧乏藩士、山本家からは四兄弟中、二人までが飛び出した。 長男盛英は御小姓役を務めていたた…

暗殺は易し ―福澤諭吉の護身術―

諜報密偵云々がらみで想起した。 福澤諭吉のことである。 彼の家には忍者屋敷みたような、特殊な仕掛けがあったのを。―― (Wikipediaより、甲賀流忍術屋敷) 順を追って話すとしよう。 彼には敵が多かった。 楠公権助論に象徴される歯に衣着せぬ物言いで、壮…

露人の見た韓国の原風景

戦争も商売も、成否は「諜報」の一点に在る。 「密偵に費やす金は最も巧みに運用されたる金である。政府がこれを支出するに吝かなるは、怠慢の極致と評すべし」――不朽の名著『外交談判法』中で、フランソワ・ド・カリエールは斯く述べた。 「復讐は武士の大…

ドイツとエビオス ―代用食を振り返る―

人類最初の世界大戦、酣なる時分のはなし。 英国下層の労働者らが雑穀入りの黒パンに、まずいまずいと不平不満をこぼしている一方で。 帝政ドイツは鮮血を代用パンの生地に練り込み、まずいどころの騒ぎではない、ある種ゲテモノを開発し、心ならずも人の舌…

五六〇万トンの行方 ―昭和十年、漁獲量―

興味深いデータを見つけた。 戦前、すなわち大日本帝国時代の水産業に纏(まつ)わるものだ。 昭和十年、全国的な漁獲量の総計は、ざっと五六〇万トンに達したという。 ちなみに最近、平成三十年度に於いては四四二万トン。技術の進歩、養殖の拡大、多くの規…

気負い立つ明治

気宇壮大は明治人の特徴である。 新興国のらしさ(・・・)とでも観るべきか。 乃公出でずんば蒼生を如何せん、俺こそこの先、日本を担う漢なりとの熱血が、国土に遍く漲っていた。 こういう例がある。 二十年代半ばごろ、さる地方都市の一学校を特に選んで…

郷愁触媒、過去への巡礼

片付けられない餓鬼だった。 「一枚のCDを聞き終わったらキチッとケースにしまってから次のCDを聞く」タイプではなかったのである、少年の日のこのおれは――。 だからいま臍を噛んでいる。 正月、実家に帰省した際、抽斗という抽斗をいちいちひっくり返す勢い…

鐵の徒花

角銭こそは天明の飢饉の遺子である。 人心も、治安も、経済も――あの空前の凶作以来、すべてが堕ちた。 東北地方、特に津軽のあたりでは、野良着姿の百姓までが、蔬菜の出来を語るのと何も変わらぬ顔つきで、 「老人の肉、死人の肉は不味くてかなわん。ぱさぱ…

選挙戦夜話

第八回衆議院議員総選挙の中で生まれた小話(こばなし)だ。 時は明治三十六年、有権者への戸別訪問を禁じる法は未だ存在していない。 ごく当然のなりゆきとして、候補に立った誰も彼もがそれ(・・)を戦略に取り入れた。直接国税十円以上、満二十五歳以上…

初夢瑣談 ―二枚貝のクイックブースト―

そのころ越後福島潟に、妙なやつが棲んでいた。 見かけは、まあ、ごく端的な表現で、巨大な二枚貝である。 殻長およそ三~四尺、120㎝にも達したとのことだから、地球最大の二枚貝、オオシャコガイと並べたところで引けは取るまい。威容に於いて、十分伯仲さ…

昭和のアルチュウ ―アルプス中毒患者ども―

狂歌(うた)がある。 あの息子 なんの因果か 山へ行き 昭和のはじめに編まれたらしい。 まるで先を争うように若者どもが山に押し寄せ、次から次へと木の下闇に呑み込まれ、さんざん平地を騒がせたあと変わり果てた姿で発見(みつ)かる。そういう事態が頻発…