穢銀杏狐月

書痴の廻廊

事は起すに易く、守るに難く、其終りを全くすること更に難し。努力あるのみ。一途に奮励努力せよ。

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初夢瑣談 ―二枚貝のクイックブースト―


 そのころ越後福島潟に、妙なやつが棲んでいた。


 見かけは、まあ、ごく端的な表現で、巨大な二枚貝である。


 殻長およそ三~四尺、120㎝にも達したとのことだから、地球最大の二枚貝オオシャコガイと並べたところで引けは取るまい。威容に於いて、十分伯仲させられる。

 

 

Giant clam or Tridacna gigas

Wikipediaより、オオシャコガイ

 


 が、妙というのは何もサイズの話ではない。


 こいつは高速移動するのだ。


 鈍重が種族的特徴の貝殻野郎の分際で。まるで射られた矢の如く、一直線に、水面を。


 目撃例は数多い。地元民との遭遇は頻繁に起きていたらしい。


 個々の証言を繋ぎ合わせることにより、おおよその生態も判明みえてくる。


 多くの貝類同様に、こいつも夜行性だった。遮るものなき澄んだ夜空を特に好んで、カバがあくび・・・をするみたく大胆に蓋を解放させる。中にはこれまたビッグサイズの――ほとんど成人男性の握りこぶしほどもある、それはそれは見事な真珠が存在し、零れ落ちる月光をふんだんに呼吸していたという。

 

 

Fukushimagata-panorama

Wikipediaより、福島潟のパノラマ写真)

 


 しかしどういう感覚器官の働きか、その輝きに魅了された人間が一定範囲に踏み入ると、たちまち上に記したままの、軟体生物に相応しからぬ度外れた運動能力の発露によって雲を霞と逃げ去りおおせる――多くの場合、蓋を閉じるのも後回しにして、おっぴろげたままの姿で。


 たぶん福島潟のヌシなのだろうが、それにしてもひょうきん・・・・・というか、滑稽味のあるやつである。とどのつまりは、


「妙」


 の一文字に帰着する。

 


「折々見るものあれども、昔よりある貝にして殊に光あるものなれば、人恐れて取る事なし。又あまり程近く見る事なければ、何貝といふ事を知る事なし。唐土もろこしなどにていふ所の蚌珠ぼうじゅにやと沙汰するのみ也」

 


 と、橘南渓はその紀行文東遊記に書きつけた。

 

 

(ちょっと前にシリーズ最新作の発表されたハイスピードメカアクション)

 


 数日前、夢を見た。


 夢で私はJR塩山駅構内なかに居て、旅装束で電車が来るのを待っていた。


 するとそこへ闖入者が出現あらわれる。そいつには目鼻も耳もない。炊き立てご飯を圧し固めて人の形に整えたとしか言いようのない、おむすび野郎と形容すべき怪物で、何故か藤原啓治の声音で喋り――口もないのに、どこから音を発していたのか不可解至極――、危機を訴えかけていた。


 なんでも通り魔に襲われて、毒を埋め込まれたという。


 このままでは汚染が進み、我が身を織り成す米粒という米粒はただのひとつの例外もなく毒米へと変化して、人格まで邪悪の側へ大きく傾倒するという。


「それは大変だ」


 さっそく保健所を呼んでやろうスマホを掴み、はて、それからどうなったのか、記憶は曖昧模糊である。


 とまれかくまれ、これが令和五年に於ける我が初夢の内容だった。

 

 

Enzan-Sta-S

Wikipediaより、塩山駅南口)

 


 実にカオスであったため、同属性の――カオスな話とくっつけてみたい気になった。


 すべてはそういうわけである。お付き合いに感謝する。

 

 

 

 

 


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