穢銀杏狐月

書痴の廻廊

事は起すに易く、守るに難く、其終りを全くすること更に難し。努力あるのみ。一途に奮励努力せよ。

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2022-08-01から1ヶ月間の記事一覧

桃色遊戯と紅血代価

オランダで日本人が殺された。 明治十八年のことである。 被害者の名は桜田親義、その身上は、一介の観光客にあらずして、留学生ともビジネスマンともまた違う。 公使であった。 現地に於ける外交上の窓口であり、「日本の顔」と称してもあながち誇張にはあ…

一高魂 ―昭和三年の破天荒―

朝陽が昇るや、街にどよめきが広がった。 波紋のもと(・・)は、繁華な通りの一店舗。ヨーゼフという独り者が経営している、その入り口の戸の上に、 自殺につき閉店す! こんな貼紙が押しつけられていたとあっては、そりゃあ騒ぎにもなるだろう。 最初は皆…

EDF! EDF! EDF! EDF!

「この感じだ、戦争だ。我らには、それが必要だ」 『地球防衛軍6』を購入。 『エルデンリング』以来だから、ざっと半年ぶりになるのか――事前に予約を入れてまで、発売日にゲームソフトを買いに行くのは。 本シリーズとの付き合いも長い。 まだ「SIMPLE2000シ…

開港前夜 ―二千両の目隠しを―

「黒船来(きた)る」。 その一報が、箱館を恐慌の坩堝に変えてしまった。 安政元年のことである。 この年の春、三月三日。神奈川の地で日米和親条約が締結された。 (Wikipediaより、日米和親条約調印地) 全十二条に及ぶ内容のうち、第二条目にさっそく開…

北陸の岸 ―白砂青松に至るまで―

越後にこういう話がある。 直江津から柏崎に至るまで、十三里に垂(なんな)んとする沿岸地帯。元来あそこは緑の稀な荒蕪地であり、強い北風が吹きつけるたび、砂塵を巻き上げ、人の粘膜を傷付けて、とても居住に適さぬ場所であったのだ、と。 (直江津港附…

名の由来 ―酒と銀杏―

先入観とはおそろしい。 ずっと名刀正宗が由来とばかり考えていた。 清酒の銘によくくっついてる「正宗」の二文字。アレのことを言っている。 (「櫻正宗」の醸造過程) ところが違った。違うことを、住江金之に教わった。 昭和五年版というから、ざっと九十…

海の屯田 ―明治人たち―

ルドルフ・フォン・グナイストはプロイセンの法学者である。 腕利きの、といっていい。その名声が一種引力として作用して、相当数の日本人が彼のもとを訪れた。教えを請い、啓蒙を得、草創間もない祖国日本の法整備を志し、意気揚々と引き揚げてゆく極東から…

落日近し ―戦場心理学瑣談―

ここに手紙がある。 差出人は名もなき軍医。支那事変の突発後、召集に応じて大陸へ馳せた無数のひとり。黄塵乱舞す彼の地から、山紫水明、日本内地の医友へと書き送ったものである。 内容に曰く、 近頃内地からの慰問団や慰問文・新聞・雑誌などから受けるも…

諭吉と西哲

福澤諭吉の言葉には、西哲の理に通ずるものが多少ある。 たとえばコレなどどうだろう。 増税案の是非をめぐって起こした――むろん『時事新報』上に――記事の一節である。 本来人民の私情より云へば一厘銭の租税も苦痛の種にして、全く無税こそ喜ぶ所ならんなれ…

通史の常連 ―旧陸軍と高島秋帆―

わがくに陸軍の「通史もの」を繙くと、まず結構な確率で高島秋帆の名前が出てくる。 勝海舟の『陸軍歴史』にしてからが既に然りだ。「天保十一年庚子高島四郎太夫ノ建議ハ暗ニ後年我邦陸軍改制ノ事ヲ胚胎スル」と、劈頭一番、序文にもう含まれている。どれほ…

明治の捕鯨推進者 ―讃岐高松、藤川三渓―

『捕鯨図識』が面白い。 読んでそのまま字の如く、クジラという、地球最大の哺乳類につきあれこれ綴った本である。 (Wikipediaより、ザトウクジラ) 著者の名前は藤川三渓、讃岐の人、文化十三年の生まれ。黒船来航前後から藤森天山・大橋訥庵等々の「勤皇…