穢銀杏狐月

書痴の廻廊

事は起すに易く、守るに難く、其終りを全くすること更に難し。努力あるのみ。一途に奮励努力せよ。

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名の由来 ―酒と銀杏―

 

 先入観とはおそろしい。


 ずっと名刀正宗が由来とばかり考えていた。


 清酒の銘によくくっついてる「正宗」の二文字。アレのことを言っている。

 

 

(「櫻正宗」の醸造過程)

 


 ところが違った。違うことを、住江金之に教わった。


 昭和五年版というから、ざっと九十年前の古書、『酒』の中にそれ・・はある。

 


 正宗といふ字を、普通マサムネと読み、刀の正宗から来たものゝ様に考へて居る人があるが、本来はセイシューと音で読ませたものださうな。其来歴は初代の山邑太郎左衛門が仏教信者で、或時深草の元政庵を訪ね、偶然机の上の経文をあけてみたら正宗の字があった。丁度酒の名を考へて居た故、これこそいゝ名だといふのでつけたとのことである。此外にも一二の説はあるが、大体此説が本当らしい。

 


 二重の意味で驚かされた。


 なんとなれば私の使っている名前、「穢銀杏」の三文字も、これとよく似た経緯によってこさえたモノであるからだ。


 三年前、『黙阿弥全集』だった。

 

 

Mokuami Kawatake

Wikipediaより、河竹黙阿弥

 


 何巻かは忘れたが、なにか良い字の並びはないかと彼の歌舞伎脚本をぱらぱら捲っていたところ、偶然この穢銀杏、――ちゃんと「よごれぎんなん」とルビが降ってあるのにぶつかり、一目で気に入り、そのままブログ名に宛てたのである。


 よって「穢」の一字を以って「よごれ」と読むのも、べつに私の独創ではない。


 その後、まあ、いろいろと心境の変化によってブログ名は変わったが、穢銀杏の三文字はアカウント名として保存しておくことにした。


 語感が気に入っているのだ、なんとなく。


 語感といえば七・七・七・五、久々に都々逸が恋しくなった。


 せっかくの機会だ、酒に因んだ傑作を並べる。

 

 

論語孟子を読んでも見たが
酒を飲むなと書いちゃない

酒に戯れ花には浮かれ
書物は質屋の重金庫

酒を飲む人蕾の花よ
今日もさけさけ明日もさけ

 

 

(樽酒の梱包)

 

 

酒屋男と寝んねこすれば
倉の窓から粕もろた

酒は飲みたし酒手はもたず
酒屋の看板見て戻る

酒にゃ諸白肴にゃ真鱈
いかな下戸衆も三つあがれ

とろりとろりと今踏む米は
酒につくりて和泉酒

 

 

(麹室)

 

 

 善哉善哉。


 酒、酒、酒、酒、灘の酒。美味の秘訣は宮水にあり。


 むかし、神戸市のどこかには、この宮水を用いて淹れた茶やコーヒーを飲ませる店があったとか。山本為三郎の随筆で読んだ。

 

 

(「ビール王」山本為三郎

 


 山本自身、興味に駆られて飲みに行ってはみたものの、さして美味くもなかったという。


 やはり本来の用途に使われるのが一番らしい。

 

 

 

 

 


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