またぞろ例の「竹博士」が喜びそうな話を聴いた。
そこは遥かなインド洋、ベンガル湾南東部。インド亜大陸本土から隔つること実に1300㎞東の彼方。翠玉を溶き流しでもしたかのように澄んだ海に囲まれて、アンダマン諸島は存在している。
「世界で最も孤立した地域の一つ」――。
そんな呼び名も高い地だ。
何年か前、例の宣教師殺害事件でいっとき世上を騒然とさせた北センチネル島なども、このアンダマン諸島を構成する一島であり、上の評価が決して看板倒れでないと如実に示すものだろう。
さて、そんな世界の果てのような地で。
原住民らがその身体を保つため、口にしていた食物とはいったい何か。
昭和十年ごろの調査によると、それは主に魚類・貝類・海亀・豚肉・鳥肉・野猫・幼虫・果実・根菜・蜂蜜・大蜥蜴に至るまで――存外にレパートリーは豊かであった。
調理技術も馬鹿にできないものがあり、ただ調理するばかりではなく、出来上がった料理の保存方法にさえ、彼らは少なからぬ工夫があった。
その詳細なやり方とは――話がここに及ぶに至り、いよいよ竹の出番となるのだ。
竹を約一尺或は一尺二三寸位の長さに切り、それを長い間火の上で熱して水分を抜きとってしまひ、その中へ、燻すか水を加へて煮た豚や海亀、或は鳥の肉を詰め、更にとろ火で長い間あてゝ置くのである。かくしてその竹の口を葉や粘土で密閉して一種の缶詰を作り、食ふ時には栓をはづして気長にそのまゝ火に当てるのである。(昭和十八年、三森定男著『印度未開民族』87頁)
(アンダマンの先住民族)
竹の殺菌・抗菌作用は言わずもがなだ。「竹林の死骸は腐敗しない」と真実込めて語られるほど、古来より知れ渡ったものである。わが日本の時代劇でも握り飯を包むのは、大抵竹の皮ではないか。「竹博士」竹内叔雄もその随筆集『竹の本』に書いている、
竹はまた、生えてゐる辺りの空気をもつくる。竹の生えてゐる辺りの空気は飽くまで静寂で、人の心を惹きつけるものである。しとやかなその空気は、竹ならでは味ひ得られぬ世界であり、いつの世にも容れられて変ることはない。
と――。いや、これはちょっと趣旨が違うか?
まあ、なんにせよ。それやこれやを鑑みるに、なるほどアンダマン人のこの慣習も、物の道理によく適っているようだ。
ついでながら彼らが食材を煮炊きするのに用いた道具は、専ら原始的な土器であったが、海亀の甲羅を逆さにして使う手合いも少なからず居たらしい。
なんとも野性的な味わいである。
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