穢銀杏狐月

書痴の廻廊

事は起すに易く、守るに難く、其終りを全くすること更に難し。努力あるのみ。一途に奮励努力せよ。

諧謔世界笑話私的撰集 ―偉人・政治家・芸術家 其之壱―

 

禁制品


 ナポレオン一世が欧州大陸輸入条例を発布した当時、一日あるひ或村を通りかかると、其処の牧師の家で頻に珈琲を炮っていた。
 ナポレオン烈しい聲で「何だ、禁制品ではないか」
 牧師「さればこの通り焼いて居ります」

 

 

 

長談議の返報


 むかしサモスの使節クレオメネスのもとに来て、ポリュクラテスと戦へと説勧ときすす めたが其話が途方も無く長かった。クレオメネスが返答をする段になった時、
「お話の始の処は記憶おぼえてゐない。それ故中程の処が了解わからない。それから終末しまひの処は自分の意に はない」

 

 付記・おそらくは、スパルタ王クレオメネス一世にまつわる話であろう。事実この人は紀元前517年、サモスからの救援要請を撥ねつけている。
 ちなみに彼の異母弟にして娘婿でもある男が、映画『300』や『アサシンクリード オデッセイ』等で近年一躍名の知れた、かのレオニダス王である。

 

 

 

哲学の利益


 イタリアの文豪トルクァート・タッソが初めて詩を作って其名を全国に馳せた時、タッソの父は之が為に息子がもっと有利な稽古事を怠るやうになりはしまいかと心配して、タッソの許に行って、哲学や作詞に身を入れて居る事を厳しく叱って、さんざんに罵り嘲った。処がタッソは辛抱強く黙止だまって居たので、父はいよいよ威丈高になり、
「全体お前がそんなに大事に思ふ哲学と云ふものは何の役に立つのだ」
 と絶叫どなると、タッソの答に、
「お父さん、哲学は貴方のはげしい嘲罵を私がこらへ得るやうにしてくれました」

 

 

 

正直


 劇詩きょうげん作者マリヴォー、路傍みちばたで「どうぞや一文」と物乞をして居る男を見ると、身体は至極丈夫らしいので、
「貴様何故働かないのだ。申し分の無い身体をして居るでは無いか」
 乞食「へへ、檀那は私が大の懶惰なまけ者であることを御存じですか」
 マリヴォー「そら、手を出したり。貴様隠し立てをせぬによって二円やるぞ」

 

 付記・マリヴォーとは、ピエール・カルレ・ド・シャンブラン・ド・マリヴォーのことかと思われる。
 この人の作風を鑑みるに、なるほど如何にもありそうな・・・・・エピソードだ。

 

 

 

死神


 百歳に手の届いたフォントネルが是も余程長年した貴婦人と客間ではなしをして居る、
「死神も私たちを忘れたと見えます」
 フォントネルすかさず、
「おっと静かに。彼奴に気をけさせてはなりません」

 

 付記フォントネルはフランスの著述家、17世紀半ばから18世紀半ばまでを生きた人。あと一ヶ月存命すれば100歳に手が届いたが、惜しくもその寸前で亡くなった。
 それにしてもこの長寿は、当時の衛生環境等を考えると驚異的と言うほかない。

 

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