穢銀杏狐月

書痴の廻廊

事は起すに易く、守るに難く、其終りを全くすること更に難し。努力あるのみ。一途に奮励努力せよ。

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私的生田春月撰集 ―男と女・煩悩地獄 其之弐―


 

 肉を底まで行けば
 心にぶッつかる
 心を底まで行けば
 肉にぶッつかる。
 それにぶッつからねば
 まだ徹せぬのだ。
 なまぬるい恋、
 恋とも云へぬ
 いろごとよ、
 賢い人のする
 いろごとよ。

 

 それは汚い
 どろどろのどぶ・・よ、
 どぶ・・にもきれいな
 花は咲く。
 花は咲けども
 ふみにじる
 男ごころは
 戀知らず。

 

 肉は心の表の心、
 心は肉の底の肉、
 それがわかれば
 おろかな戀に
 死んだ男も
 莫迦にはできぬ、
 戀と女を
 知る人ぞ。
(昭和六年『生田春月全集 第三巻』、55頁)

 

 

 

 肉をもって肉を防ぐと
 須磨子の愛人の云へる言葉よ、
 四十歳の男の言葉
 それが俺には云へなんだ。
 道徳が俺の首かせ、
 臆病が俺の足どめ、
 もう愛する女はみなマダム、
 今ごろ何をぢたばたする、
 今となっては、もうおそい、
 おまへの子供は何処にもない。
 (同上、41頁)

 

 

おれはたった一人の女をも
 幸福にしてはやれない男だ、
 おれを愛してくれた女たちは
 豚に真珠を投げやつたのだ。

 

 女を愛する事の出来る男は、
 強く生きる力をもつてゐなければならない。
 女はその全生命を挙げて頼るのだから
 力強く抱擁してやらねばならない。

 

 それにおれは女の愛によつて
 その弱さと苦しみから救はれようとした。
 何といふ愚昧、何といふ罪悪!
 おれは愛してはならない男だ。

 

 おれはたった一人の女をも
 幸福にしてはやれない男だ、
 おれを愛してくれるならば
 みんなおれを捨てて行つてくれ。
(同上、459頁)

 

 

 

 最後の句からはなんとなく、ニーチェのあの言葉が連想される。すなわち、


 ここには、真の男が少ない。それゆえここの女たちは男性化する。つまり十分に男である者だけが、女の内部にある女を・・――救い出す・・・・ことができるのである。


 という、あの言葉が。

 

智慧に輝く愛 (国立図書館コレクション)

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