穢銀杏狐月

書痴の廻廊

事は起すに易く、守るに難く、其終りを全くすること更に難し。努力あるのみ。一途に奮励努力せよ。

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私的生田春月撰集 ―男と女・煩悩地獄 其之壱―

 

男がえらく
なる道は、
女にふられ、
だまされて、
コッピドイ目に
あふだけよ。

 

女の笑ひと
ながしめと、
甘い言葉の
猫撫聲で、
もてあそばれたら
しめたもの。

 

それで男に 
なれぬなら、
そこでうかうか
ほめられりや、
男の一生
臺なしよ。

 

浮世のことは 
みんな嘘、
女の言葉は
みな手管、
嘘のまことが
戀の味。
(昭和六年『生田春月全集 第三巻』279頁)

 

 

 

 おれは夢みた、えらい男が
 火の車に乗つて、
 女どもをつれて
 取り巻きをつれて、
 坂を驀地まっしぐらにころがり落ちる
 まなこすわつた蒼い顔。

 

 えらい男はみんなあれだ、
 力一杯ころがして、
 地獄の底へと逆落さかおとし。
 おれも男だ、負けるものか、
 破滅を目がけて落って行け、
 なんの一生、こんなものサ。
(同上、266頁)
 

 


 男と男――
 男と男がほんとに會ふのは
 この時ばかりだ、
 女を中に
 むかひ合つて立つ時だけだ。

 

 獅子と獅子、
 牛と牛、
 刃物と刃物――
 男と男が
 血をみるときだ。

 

 なんでその原始にかへらぬ、
 野蛮人の法則、
 力の裁き、――
 瞬間にきまるぢやないか、
 女を中に。

 

 法律だ、
 名誉だ、
 世間態だ、
 なんてまはりくどい、
 二十世紀だ。

 

 おれのものを何とする、
 いや、おれの女だ、――
 獅子と獅子、牛と牛、
 男と男が出會ふとき
 生命いのちが火花を散らすとき。

 

 そこまで何で行かなんだ、
 お前は男でなかったか、
 いやいや、丁寧に挨拶して
 世間話をして別れた
 男と男が、女を中に。
 ――二十世紀だもの。
 (同上、38頁)

  

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感傷の春 詩集 (国立図書館コレクション)

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