穢銀杏狐月

書痴の廻廊

事は起すに易く、守るに難く、其終りを全くすること更に難し。努力あるのみ。一途に奮励努力せよ。

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私的生田春月撰集 ―情熱・勇気・前進 其之弐―

 
すべての人に嘲られ罵られても、
われは平然として、
路上を行かん、昂然として。
わが心には
真珠あればなり。
(昭和六年『生田春月全集 第二巻』、209頁)
 
 
 
血をもって
その伝記の一頁一頁を
染めて行け。
中途にして、
これを墨汁に換ふるべからず。
(同上)

 

 

 

思へば、俺の一生も、結局、
得の一生ではあるまいか。
人のやらない事をやったんだもの、
人の味ははぬ苦を味はい、
人の恐れる道を踏んだんだもの、
思ふ存分暴れ廻って、それで死ねば
おれは得人、しあはせものよ。
(昭和六年『生田春月全集 第三巻』、217頁)
 
 
 
おれは我儘、勝手もの。
誰が何と云はうと、
何と責めようと、
何の遠慮があるものか。
やれ、やれ、やってやり過ぎろ、
やり足らなければ、死ぬときに、
後悔先に立たぬと知れ。
 
好きな女は手に入れろ、
嫌やな男はぶちのめせ。
押へ付けて来りゃはねかへせ、
因業爺なら絞り出せ。
人のおもはく、何の糞、
思った事はみんな云へ。
お江戸構ひは覚悟の前よ。
 
滅びたところで、それきりだ。
死んだところで、それでよし。
思ふ存分、あばれ廻って、
わめいて、ほざいて、毒付いて、
末は何処ぞで野たれじに
面白からうじやあるまいか。
おれは我儘、勝手もの。
(同上、241頁)
 
 
 
凍えた心臓は焼いちまへ、
てつでなければ燃えるだろ。
紫水晶の心臓はどんなに美しくとも、
見かけだふしの死んだ心臓、
そんなガラクタ、ぶち砕け。
 
ただ人間無限の苦悩のために
びくびく動く心臓だけが、
生血の通つた生きた心臓だ。
いのち高鳴るその心臓の
火もて浄めよ、世の悪を。
(同上、242頁)
 
夢心地 (国立図書館コレクション)

夢心地 (国立図書館コレクション)

 

 

 

 

 それにしても、これほどの良書――『生田春月全集』――が一冊500円で投げ売られていたという現実は、いったいどう解釈すればよいのだろう。
 復刻版ではない。正真正銘昭和六年発刊の原本である。保存状態とて良好だ、書き込みもページ破れも見当たらない。であれば本来、5倍、10倍の値がついても良い筈である。
 本の街・神保町の奥深さに感心すべきか、それとも「現代」が如何に生田春月を等閑に付してきたか、この一事からでも明白であると憤るべきか。


 ちょっと判断に困ってしまう。

 困るあたり、私も大概気弱な男だ。こういう場合、ただ得をしたと喜んでいればよかろうに。

 

 

 


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