穢銀杏狐月

書痴の廻廊

事は起すに易く、守るに難く、其終りを全くすること更に難し。努力あるのみ。一途に奮励努力せよ。

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2022-04-01から1ヶ月間の記事一覧

北アルプス VS 南アルプス

南アルプスは欠点だらけだ――。 そんな誹謗中傷に、思いもかけず遭ってしまった。 甲州人として悲しまずにはいられない。 往昔の日本山岳会に、小暮理太郎という人がいた。 群馬の生んだ偉大な登山家、齢六つで赤城山を征して以来、山の魅力に憑かれた男。 地…

去勢夜話 ―第二天使ケルビムの聲―

藿香。 鶏卵の黄身ふたつぶん。 生クリーム一合五勺。 それから砂糖を小さじ半。 これらは牛肉のスープと合わせることでジェニーリンド・ドリンクと呼ばれ、十九世紀の声楽家らが喉の調子を保つため、愛飲していたものである。 最初にレシピを確立したのはス…

夢路紀行抄 ―プランテーション―

夢を見た。 久方ぶりの夢である。 私は農場で働いていた。 いや、これを農場と呼んでいいのかどうか。 世話しているのは桃でも葡萄でも小麦でもなく、カマキリの卵なのである。 (Wikipediaより、オオカマキリの卵鞘) 畝に根を張る、なんだかよくわからない…

英国紳士とダウジング ―アイルランドに於ける検証―

イギリス人は検証好きな生物だ。 産業革命を成就せしめただけあって、原理の解明をこよなく愛す。 神秘的な何がしかに直面しても、手放しに感動したりせず、疑惑のまなざしを先行せしめ、それが本当に理解を超えた代物か、納得いくまで試そうとする。 エマー…

夢と現の境界 ―第十五號患者の記録―

お見舞いとして贈られた汁気たっぷりなフルーツを、 「それは銅で出来ている!」 と、顔じゅうを口にして絶叫し、一指も触れずに突っ返す。 (たわわに実った甲州葡萄) 曲がり角に突き当るたび、その蔭に、ドリルを構えて待ち伏せしている医者の姿を幻視し…

ダンボール以前 ―流通小話―

四十五億五千万ボードフィート。 我々にとって身近な単位に置き換えるなら、一〇七三万六八〇四立方メートル。 学校に併設されている二十五メートルプールの規模は、およそ四二〇立方メートルが一般的と聞き及ぶ。するとこれを収容するには、ざっと二万五千…

プッチ神父とトーマス・エジソン ―発明王の生命哲学―

あれは結構好きだった。 ホワイトスネイクがスポーツ・マックスに説いて聴かせていた話。 地球上でどれほどの死と、どれほどの生が循環しようと、「魂」の総量は常に一定、増えてもなければ減ってもいない。 永遠の均整を保ち続けているのだと、そんな趣意の…

紅葉館の霹靂 ―伊藤博文、大激怒―

「望月ッッ」 その日、紅葉館に雷が落ちた。 紅葉館――東京・芝区に存在していた超高級料亭である。 「金色夜叉」の作者たる文豪・尾崎紅葉が、ペンネームの元ネタとした建物だ。 (Wikipediaより、紅葉館) 隅々まで職人の心配りが行き届いた純和風の邸内。…

「誠意」の氾濫 ―南洋諸島覚え書き―

最初の世界大戦で、日本は「勝ち組」に身を置いていた。 戦後行われるパイの切り分け作業にも、当然参加する資格を有す。各国の思惑交錯し、智略謀略張り巡らされ、次の大戦への種子がまんべんなく振り撒かれたヴェルサイユ会議が終結したとき。極東の島国の…

ゴム鞠たれ、潤滑油たれ ―三井の木鐸・有賀長文―

面接に於ける常套句と言われれば、大抵がまず「潤滑油」を思い出す。 あまりに多用されすぎて、大喜利のネタと化しているのもまま見受けられるほどである。 人と人との間を取り持ち、彼らの心を蕩かして個々の障壁を取り払い、渾然一体と成すことで、組織と…