津田梅子が光源氏を嫌っていたと示す逸話が世にはある。
英訳された『源氏物語』の校正作業を頼まれて、しかし内容の卑猥さゆえに断然これを拒絶した、と。こんなのはポルノと変わりなし――と、激しく罵りさえしたと。だいたいそんな筋だった。
目下、世間はこのエピソードを専ら「ガセ」と認識している。妄想の産物、学術的な裏付けは何一つないにも拘らず、取り合わせの妙、構図自体の面白味に引っ張られ、とめどもなく
(Wikipediaより、津田梅子)
ところがだ。明治十七年十月二十日の『今日新聞』を覗いてみると、こんな記述が目に入る。
「いづれの御時にか勝れて時めき給ふ参議在しましけり、一日津田仙氏の愛嬢梅子ぬしを館に召させられ、其の学びの程をためさんとにや、末松謙澄うしの訳せられたる英文の源氏物語一巻をとうで給いて読みて見よとぞ仰せられける、此の梅子ぬしは幼なき折より異国に渡りて物まなびせし少女なれば、我邦の書どもは仮名まじりの文すら読得ざれど彼国の文字には明かなりければ、臆する色もなう其書一ひら二ひらを読みもて行きて、にはかに巻を覆ひ嘆じて云ひけるは、此書はいと猥褻がはしき事のみ多ければ読むとも益なく害多し、かゝる物語は文庫に納るを好まずと言ひ放ちて其儘我家に帰へりしとなん」
新聞に
というよりも、実に屡々、フェイクニュースを発信してる。もはや周知のことである。だから当然『今日新聞』のこの記事も、手放しに信じるわけにはいかぬ。デマの可能性は十分にある。
だがしかし、仮にデマであったとしても、それはそれで一種
津田梅子に『源氏物語』を読ませたがる風潮は、ひいては彼女の口を借り、「世界最古の小説」を批判したがる風潮は、百四十年以上前から既に存在していたと、そのことだけは確実に證明されるわけだから。
大衆が好む構図というのは、どうも定型があるようだ。
百年前も、百年
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