容器を選ぶことから始める。
まず以って、茶碗が適当な候補であろう。木製よりも陶器がいい。日頃めしを盛っているので充分だ。そういう茶碗の口縁に和紙を張りつけ蓋をして、更に糠を盛りつける。
だいたい三分――一センチ弱が適量らしい。盛ったなら、そのまた上に炭火を載せる。
炎を上げず、ただ芯が、真っ赤に熾っているやつだ。こうすると糠は主に二つの
炭火を除くタイミングこそ重要だ。熱が紙に及ぶ前、焦げ目をつくるギリギリに手を打つことができたなら、糠だけ新たなモノに替え、すぐまた次の油を採れる。手馴れた者は一枚の紙で三度ほど、上の工程を繰り返せたそうである。
そうして得られた油は専ら薬として使われる。たむし、あかぎれ、エトセトラ――痒みを伴う皮膚の異常に、殊更効いたとのことだ。
流石はコメに、五穀の長に由来する品。
こういう古式ゆかしい生活技術、おばあちゃんの知恵袋めいたアレソレは、郷愁に似た切なさを纏い、妙に私の胸を打つ。この感覚は、だいぶ前、タチウオパールに見出したのと同一線の趣きか。
藁もまた、使いよう次第で健康回復に役立つらしい。なんでもヒ素の毒を中和するとか。
藁を焼いて灰にして、清水に溶いてよくかき混ぜて、清潔な布で漉して飲む。石見銀山ねずみ捕り等を誤まって口に入れてしまった際の応急手当として知られたが、効果のほどはどうだろう。いまいち信頼性を欠く。
まさか我が身で試すわけにもいかないし、こちらは半分、いや八割方、迷信として扱った方がよさそうだ。
ちなみに私の生家では、ヘビイチゴの焼酎漬けを常備薬として置いていた。
蚊に
畑の土手に、側溝に。ヘビイチゴは
たぶん今もそのままだろう。摘むやつが減って、より勢力を盛んにしているやもしれぬ。
植物の生命力ほどふてぶてしいやつはない、よほど侮れぬものなのだから。
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