穢銀杏狐月

書痴の廻廊

事は起すに易く、守るに難く、其終りを全くすること更に難し。努力あるのみ。一途に奮励努力せよ。

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タマニー・ホール武勇伝 ―不正選挙の玄人衆―

 

 第五十九回大統領選に関連して、不正選挙だ言論弾圧だ陰謀だとなにやら色々かまびすしいが、アメリカがロクでもない国なのは、別段今に始まった話ではないだろう。


 なんといっても、慈善団体が十年足らずで政治ブローカー集団に早変わりする土地なのだ。


 十九世紀のニューヨーク市政を壟断しきった、悪名高きタマニー・ホールを言っている。

 

 

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 この民主党マシーンの機能については、既に百年近く前、時事新報社経済部がこれ以上ないほど赤裸々に素っ破抜いてくれている。曰く、

 


 日本の官僚や政党政治家は、選挙権の拡張に対しては、伊勢屋の親爺が金を出し吝むやうにケチであるが、自由民権の国だけあって、タマニーの遣り方は其反対に、選挙権のない多数の外人に不正帰化を許して、選挙権を賦与したものである、その上愈々開票の際には、選挙の係員から立会人等一切を自党で占めて投票の計算に不正を働くと云ふ徹底ぶりである。(昭和三年『利権物語』10~11頁)

 


 ほとんど売国まがいの邪道も辞さない機関であると。


 反対党のやることはなんでも批難し、些細な傷を針小棒大にあげつらい、全力で足を引っ張りまくって権勢の座から叩き落とすのが政党政治の鉄則であるが、それにしたって限度があろう。こんなことを許していては、前提たる国家自体が壊れてしまいそうである。


 それともこうして眉を顰めざるを得ないのは、私が民主主義の伝統薄き日本国の蒼生だからか?


 まあ、そんな詮索はどうでもいい。上の遣り口を淫するほどに用いた結果、「或時の選挙にはニューヨーク市の投票数は、有権者総数よりも八パーセントも多かったと云ふやうな、奇々怪々な現象も表れたものだ」そうである。


 なんのことはない。不正は民主党の伝統だ。だから今回、不自然な票の動きとか、不透明な集計模様を報されようと、私はさして驚かなかった。連中ちょっと、先祖返りを試みでもしたのだろうと――。


 中共のテコ入れがあるにせよ、元々そういう土台を持っていたのは否定できまい。

 

 

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 タマニー・ホールの絶頂時代は、1870年前後に訪れている。


 たった三年で一億ドルを騙取したという伝説が誕生したのもこのときだ。


 市長も、
 知事も、
 判事も、
 会計官も、


 およそ枢要の役職は悉くタマニー・ホールの人員により独占されて、ニューヨークは完全に、彼らの自家薬籠中の物だった。その威光の赴くがまま、タマニー・ホールは無限の自由を謳歌した。

 


 彼等が其黄金時代に於て、其全盛を恃んで営んだ不正非道の利権行為は、挙げて数ふ可からざるものがある。(中略)市区改正に際して一味のものをして予定地を買収せしめ、之に多額の賠償金を支払ふとか、市の各種の工事の請負、用品の納入をも一味の関係者に当らしめて其のコンミッションを取るとか云ふ遣口である。千八百七十年代では紐育ニューヨーク市の人口もまだ少く従って市役所の規模なども極めて小さかった筈であるが、それでも猶年々百五十萬弗からの文房具代を、一派の利権会社に支払うてゐる。(12頁)

 


 参考までに触れておくと、1870年に於ける150万ドルは現代に於けるおよそ3070万ドル、日本円に換算して31億円以上に当たる。


 毎年、31億円以上の文房具代。


 どれだけ高級なインクやペンを使っていたというのだろうか。目も眩むようなアメリカンドリームの具現であった。

 

 

Nast-Tammany

 (Wikipediaより、トーマス・ナストの風刺画。タマニー・ホールという虎が、民主主義を食い殺している)

 


 甚だしいのは千八百六十八年、二十五万弗の予算で、建築に決した州の裁判所の建物が、三年間に予算を超過すること千二百七十五萬弗、それで尚工事が出来上がらないと云ふやうな不体裁を演じてゐる。いかに萬能の偉力を持った弗でも建築屋に金が廻らないで、政治家のポケットに入っているのでは泰山を挟んで、黄河を越えんとするやうなもので、出来る筈がない。其外一味の利権会社をして各新聞紙に厖大な広告をなさしめて、間接に新聞買収を試みる等、魔の手は各方面に延びてゐたものである。(12~13頁)

 


 過去の声には耳を澄ましてみるものだ。


 これから先のアメリカがどんな変容を辿るのか、ひどく楽しみになるではないか。

 

 

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