○面白い点では天下第一のキング
○楽しみながら修養出来るキング
○世の中のことは何でもわかるキング
○読者のためには努力を惜しまぬキング
○毎號大家の傑作を満載するキング
○いつも新計画で天下を驚かすキング
○どんな人にもよろこばれるキング
○国を良くし家庭を明るくするキング
○創刊以来雑誌界の覇王キング
○どこまでも発展して行くキング
大日本雄弁会講談社発行、「キング」昭和八年五月號附録、『非常時国民大会』冒頭に掲げられている条々だ。
なんと景気のいい、大風呂敷であることか。
どうせ見栄を張るのなら、これぐらいデカデカと張るべきだ。
そして事実「キング」には、これを言う資格があるだろう。なんとなれば「キング」こそ、日本ではじめて出版部数百万を超え、「一番読まれた雑誌」の栄冠を恣にしたレーベルだからだ。
俺たちこそが社会を、国を牽引してやると言わんばかりの気宇壮大さは、真に見習うべきものがある。
他にもこの小冊子の見どころは色々あるが、今日のところは差し当たり、幾点かの風刺画を紹介するにとどめたい。
まずはこれ、清水対岳坊作、「非常時日本」。
支那を操り人形として日本といがみ合わせるアメリカ、それを背後から衝く隙を、虎視眈々と窺う赤露。
なんとも悲惨な状況下に落ち込んだものだ。
味方は
同じく清水対岳坊作、「油断大敵相手は大ものだ」。
我に大和魂あれば、彼にヤンキー魂あり。容易に勝てる相手ではない。ゆめゆめ軽侮するなかれ。
そんな論調が、少なくともこの時点では未だ罷り通っていた。
三たび清水対岳坊作、「あなたッ 非常時ですよもう起きたらどう」。
どんなにか世が乱れたところで、朝寝の愉快、ぬくい布団の誘惑はそうそう断ち切れるものでない。
今も昔も変わることなき人情であろう。
前川千帆作「愛国焼」。
満州事変突発するや、日清戦争の古強者が秋風四十年の古軍服を引っ張り出して、怪しげな露店を営む姿。なんでも愛国思想涵養の成分が含まれている菓子だとか。
何かの暗喩か、それとも現実の光景の切り抜きか。
いずれにせよ、機を見るに敏な輩というのは居るものだ。
宍戸左行作「しかも彼等は行く」。
非常時日本という大荷物を車に乗せて、颯爽と前をゆく男たち。
左から、
安達謙蔵(国民同盟)
若槻礼次郎(民政党)
斎藤実(総理大臣)
鈴木喜三郎(政友会)
陸相
海相
を、それぞれ描いたものだろう。
胸を張り、肩を聳やかし、如何にも堂々としたものである。
しかしながら本当にこの大荷物を動かしているのは彼らの後方、右端で独り八の字眉に大汗かいてる高橋蔵相その人なのだ。
このダルマさんは本当に、大衆からの人気があった。
「あの人が財布の紐を握っているなら大丈夫だ」という、ふわふわとした形のない安堵感。
一見他愛なさげな効果が、しかしその実どれほど得難き資質であったか。そのあたりの消息を、よく反映した一枚だろう。
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