穢銀杏狐月

書痴の廻廊

事は起すに易く、守るに難く、其終りを全くすること更に難し。努力あるのみ。一途に奮励努力せよ。

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夢路紀行抄 ―強制労働―

 

 夢を見た。
 収容所にぶち込まれる夢である。


 最初、私は船の甲板に立っていた。


 今となっては映画の中か、どこぞのテーマパークにでも赴かねばまずお目にかかれぬ、古式ゆかしき三本マストの風帆船の甲板に、だ。

 


 周囲は暗い。夜の海を、船は滑るように進む。

 


 と、あたりの闇がにわかな盛り上がりを見せた。
 不審に思う暇もなく、その盛り上がり・・・・・から幾条もの光線が発射される。
 サーチライトの照射であった。


 いつの間に忍び寄ったのだろう、D-Dayにノルマンディーの岸辺へ雲霞の如く押し寄せた、あのLCVPにそっくりな船がこちらを完全に包囲しており、蟻の這い出る隙間もないのだ。

 

 

Darke APA-159 - LCVP 18

Wikipediaより、LCVP) 

 


 乗り込んできた兵士達に、為す術もなく捕縛された。


 縄を打たれて体育館に詰め込まれたかと思うと、窓が閉められカーテンが引かれ、一切の明りが落とされて、正面スクリーンに映し出されたのは大英帝国の絢爛たる歴史を物語るドキュメンタリー映像。斯くも偉大なる我々の為に働けることを光栄に思え、いっそ感涙にむせび泣けとか、そんな趣旨だったように記憶している。


 その後は強制労働が待っていた。


 黒ずんだ皮膚の老人が、得体の知れぬ海産物を干物にする作業に従事していた。
 私はというと、コーンスープのぶちまけられた板敷の床を雑巾で以って拭かされた。
 出来栄えをチェックしに来た先輩に、拭き方が下手だと怒鳴りつけられ、なにをこの、てめえだって虜囚の分際で偉そうに、と嚇怒の炎に身を焼かれたあたりで目が覚めた。

 


『殉国憲兵の遺書』『アーロン収容所』を読み込んだ影響だろうか?


 それにしても、風邪をひくといつもより、夢を見やすいような気がする。
 不幸中の幸いと言うか、怪我の功名と呼ぶべきか。なんにせよ、思わぬ恩恵があるものだ。

 

 

アーロン収容所再訪 (中公文庫)

アーロン収容所再訪 (中公文庫)

 

 

 

 


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