夢を見た。
わけのわからぬ夢である。
まず、私は湿地帯を彷徨っていた。曲がりくねった木が生い茂り、日中でも薄暗く、足元の泥濘はいちいち膝下までずっぽり埋まる、これ以上の難路にはちょっとお目にかかれないであろう場所である。
出没する生物も酷い。
獲物の首を正確に絞めて窒息死させる蛇だとか、泥の中から砲弾の如く飛び出してきて、こっちの肉を噛み千切らんとがちがち牙を打ち鳴らす鰐だとか、そんな悪意の塊めいた爬虫類どもに襲われて、必死の思いで私は逃げた。
脇目もふらぬ遁走である。それが災いしたのだろうか、突如として横合いから現れたモーターボートに跳ね飛ばされて、私はしたたかに宙を舞った。
で、落下した先に置かれてあった空き缶に小銭を入れると――何故そうしたかは分からない。ただ、そうしなければならないという、強迫観念にも似た盲目的な衝動に背中を押されただけである――、見計らったように首筋に冷たい感触が。
雨である。
予兆はすぐに、風呂桶の底を抜いたような猛烈な勢いの本降りへと移行した。
――これが赤道付近のスコールか。噂には聞いていたが、凄いものだな。
と、ビルの高層階から外を眺めて感慨に耽ったものである。どうやってこのビルに入ったのかは憶えていない。気付いたら既にそこに居て、しかも何の違和感も抱かなかった。
あんな土壌の上にどうやってこんな高層建築を建てたのか、という当然の疑問もむろん一切浮かんで来ない。夢とはどうも、そういう性質のものらしい。疑いを起こす人間自然の能力を、根こそぎ抜き取ってしまうのだ。
やがて雨が小降りになると、妙なものが視界の果てから近付いてきた。
ふわふわと宙に漂っている。
一瞬、タンポポの綿毛を連想したが、すぐにそうではないと気付かされた。
子供である。
黄色い帽子を被った小学生の集団が、透明なビニール傘をさしてそれで浮力を得ているらしく、如何にも楽しそうな顔つきで、私のいるビルの前を横切ってゆくのだ。
「修学旅行だそうですよ」
いつの間に背後に立たれたのか、燕尾服の老人が、私の耳元に口を寄せ、囁くように教えてくれた。
雨が上がった。
大気は拭われたが如く澄み、遥か先まで見通せる。豪壮な滝のてっぺんに素っ裸の巨人が寝そべっていて、その周囲に虹が出ていた。
例えようもなく美しい、その光景に見惚れていると目が覚めた。
覚めるや否や、何が美しかったのか全く理解できなくなった。今、こうして振り返っても支離滅裂な夢である。
寝る前に楽しんだ虎斑霧島の量が、いささか多過ぎたのであろうか?
なんともはや、妙な気分だ。
かつてない一日の始まりであることだけは間違いない。
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