夢を見た。
夜天を焦がす夢である。
眠りに落ちて暫しの後。ふと気がつくと、見晴らしのいい場所にいた。
どうやらビルの屋上らしい。
それもかなりの高層ビルだ。
地球の丸みを実感できるほどではないが。
地面を行き交う自動車が、豆粒に見えるほどではあった。
周囲に比肩し得る建物はなく、顔を上げればのっぺりとした暗い夜空が広がっている。
月はどこにも出ていなかった。
そのことに、淡い失望を感じている暇もなく。
突然、まったく唐突に。――視界の果てに広がる山並み、そのたおやかな稜線が、ぱっと紅く色づいた。
すわ払暁かと錯覚するほど、その色彩は強烈だった。
が、違う。そうではないとすぐ知れた。
ロケットである。
どうも山の向こう側に発射基地があるらしい。途轍もなく大型の、私が立っているこのビルにも匹敵しかねないロケットが、衝撃波の白い衣を纏いつつ、夜空を駈け上がってゆく。
猛然と燃焼するブースターこそ、この一帯に束の間の夜明けを現出せしめたタネだった。
噴煙が天蓋にひろびろとした弧を描く。――今にして思うと、ちょっと弓なりであり過ぎた。あの角度では、大気圏突破など不可能なのでは?
まあいい。夢だ。そのあたりへの突っ込みは野暮であるに違いない。
第一、現場の私はそんな重箱の隅を突っつくような、些末な事柄に気を取られていられるような精神状態では有り得なかった。
何故そうなったのか、理屈はまったく不明だが。――ロケットの姿を認めた瞬間、私の背骨を謎の快楽が突き抜けたのだ。
あの感覚を、いったいどう形容すればよいのやら。
頭蓋骨が花開くように開かれて、露わになった脳味噌を、直接温手で揉みほぐされでもするかのような、そういう安らぎを伴った快楽。ただでさえ人間は気持ちいいのに弱いというに、あれはちょっと反則ではなかろうか。
(『Fallout: New Vegas』より、ユリシーズ・テンプル)
もはや思慮は消え果てた。魅入られるとは、あるいははああした感触か。
炎に飛び込む蛾のように、ただ本然の衝動にのみ支配され、一心不乱にロケットを追う。
屋上を横切り、フェンスに手をかけ、よじ登り、遥かな虚空に一歩踏み出そうとして――そこではたと、我に返った。
発生と同等の脈絡のなさで例の歓喜は消え失せて、空いた隙間に、今度は恐怖が流れ込む。おれは今、いったい何をしようとしていた?
眼下の眺めと不安定な足元に、心臓がいっぺんに縮み上がって――そのあたりで目が覚めた。
動悸を抑え、横を向けば、こはいかに。扇風機がつけっぱなしになっている。
タイマーをセットしたはずが、
(なんたることか)
またもや胆が冷やされた。不健康な真似である。体調が崩れなければよいのだが。時期が時期であるだけに、ひどく不安な気分になった。
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