穢銀杏狐月

書痴の廻廊

事は起すに易く、守るに難く、其終りを全くすること更に難し。努力あるのみ。一途に奮励努力せよ。

※当ブログの記事には広告・プロモーションが含まれます

私的生田春月撰集 ―憂愁―

 

 秋という単語から連想されるものはすべからく寂寥の色を帯びている。
 それはそうだ、秋に心を添えたなら、もううれいという字になるではないか。人をして感傷へといざなう万物の凋落時ちょうらくどき。春月は殊更にこの季節を愛したように思われる。

  有終の美を飾るには、最適格なテーマであろう。

 

  

 

秋が更けると、野にも山にも、
落葉が風に飛ぶ、心に迷ふ。
ふるいものはみんな枯れるのに
人の心の古傷のみはうづきだす。
(昭和六年『生田春月全集 第一巻』354頁)
 
 
 
しぐれ、はらはら
紅葉をそめて、
秋の夜ながは
夢ばかり。
 
夢のゆくゑを
見果てぬうちに、
霧のなかから
夜が明ける。
 
夜明け、ほのぼの、
紅葉の露は、
昨夜よべのしぐれか
朝霧か。
(昭和六年『生田春月全集 第二巻』46頁)
 
 
 
秋は一人の苦しみどきか、
みなそれぞれに寂しいものを。
雨は葉を打ち、葉は地をたたく、
この世の夢もみな落ちる。
(昭和六年『生田春月全集 第三巻』、532頁)
 
 
 
秋はうれしや、
菊のつゆ、
黄金ちらばふ
日のひかり。
 
とりいれどきの
せはしさよ、
中にみのらぬ
人ひとり。
 
秋はひとりの
旅がよし、
暮るる野もせに
酔い死なば。
 
落つる木の葉に
うづもるる
そのなきがらを、
誰れと知る。
(同上、52頁)

 

 

f:id:Sanguine-vigore:20190219172125j:plain

 

 

 


ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。
この記事がお気に召しましたなら、どうか応援クリックを。
 ↓ ↓ ↓

にほんブログ村 本ブログ 古本・古書へ