穢銀杏狐月

書痴の廻廊

事は起すに易く、守るに難く、其終りを全くすること更に難し。努力あるのみ。一途に奮励努力せよ。

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幻燈 ―夢と現を繋ぐもの―


 銀幕で濡れ場が開始はじまると、客席中にもつられて血を熱くして、みるみる脳まで茹であがり、一切の思慮を蕩けさせ、過去も未来もまるきり喪失、ただ現在いまだけの、現在確かに存在している衝動だけの塊と化し、そのままそこで自分等もおっぱじめ・・・・・ちまう・・・バカがいる。


 これは戦前、白黒映画、どころか声も入っていないサイレントキネマの時代から、屡々生起し、問題視された事態であった。

 

 

Mitsuhama Retro 2021-08 ac (5)

Wikipediaより、ローヤル映写機)

 


 福岡県庁保安課による調査記録に基けば、昭和四年に劇場内にてつまりその、暗がりにまぎれてみだらなことをしたというので、八幡市だけで女性六名、男性十六名が捕まり、こっぴどく説教されている。


 検閲に引っかからないよう、直接的な描写を避けた匂わせるだけのラブシーン。あんな粗っぽい映像だけで人目を全然忘れ去るほど発情するのが可能とは、いっそ感心するべきか。


 ありがちと言えばありがちなシチュ、成年漫画や官能小説、俗にいわゆるポルノ界にてしょっちゅう採用されてはいるが、まさかホントにやる奴が、おまけにこんな以前から既にしっかりあったとは。

 

 

(六区活動写真街)

 


すべて事物の想像はくうより生ずるものに非ずして何か拠る所なきを得ず。例へば人間に曾て見たることなき地獄極楽を想像するも、地獄の苦しみは火焔、熱湯、剣の山等、何れも此娑婆世界にあるべきものにして、極楽の楽しみも金銀、瑠璃、音楽、美味等、是亦この世に在て至極結構なるものなり。蓋し人類の想像は人類の外に出るを得ず、唯既往既有の先例に拠るものと知るべきのみ――ああ福澤よ、あなたはとことん的確だった。


 あらゆるすべてに先例元ネタがある。こんな形で実感したくはなかったが、現実リアル幻想フィクションの間には深い相互関係が、眼には視えない臍帯により固く結ばれているらしい。

 

 

 

 

 


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